株式銘柄紹介ブログ

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殺虫剤メーカについて調べてみた フマキラー 事業内容と業績推移

事業内容

事業概要および部門別売上構成

フマキラーは「殺虫剤」「園芸用品」「防疫剤」「家庭用品」の製造販売を主な事業として営んでいます。

以下の表は各部門の取り扱い品目および事業地域です。

部門 取り扱い品目 地域
殺虫剤 ワンプッシュ式蚊取り器、電池式蚊取り・虫よけ、マット式蚊取り器、液体蚊取り器、蚊取りマット、ハエ・蚊用殺虫剤、ゴキブリ用殺虫剤、虫よけ剤、くん蒸剤、不快害虫用殺虫剤 日本、東南アジア、その他
園芸用品 園芸害虫用殺虫・殺菌剤、肥料、活力剤、除草剤、培養土等 日本
防疫剤 乳剤、油剤、粉剤、殺そ剤等、フマキラートータルシステム(シロアリ事業・衛生事業、木材保存事業) 日本
家庭用品 衣類防虫剤、除湿剤、花粉アレルギー対策商品、除菌剤等 日本

有価証券報告書およびIR情報より表を作成


以下は2018年3月期の部門別の売上構成です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


いずれの部門も殺虫に関連する製品を取り扱っています。また、売上の殆どが「殺虫剤」部門によるものです。部門別の利益に関する情報はありませんでした。

地域別の売上構成

以下は2018年3月期の地域別の売上構成です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


海外売上が43%と高いです。各部門で海外で事業を行っているのは「殺虫剤」部門だけなので、国内の殺虫剤で37%、海外の殺虫剤で43%の売上をあげている計算になります。


世界の家庭用殺虫剤の市場規模および構成は以下の通りです。


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IR資料より


家庭用殺虫剤市場はアジアが占める割合が多く、フマキラーが東南アジアに注力しているのは理にかなっています。


フマキラーの殺虫剤シェア

以下は国内の家庭用殺虫剤のシェア推移です。

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IR資料より


A社がアース製薬、B社がキンチョウです。国内ではアース製薬の圧勝であることがわかります。それでもフマキラーは健闘しており、じわじわとシェアを伸ばしています。


以下はASEAN地域でのフマキラーグループの殺虫剤シェアです。

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IR資料より


ミャンマー、マレーシア、インドネシア、ベトナムで約30%のシェアを獲得していることがわかります。ただ、他メーカのシェアがわからないのでフマキラーグループがASEANで優位な状況にあるかはわかりません。

業績推移

売上と利益

以下のグラフは売上と営業利益率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


以下のグラフは営業利益と純利益の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


売上が2014-3期以降に大きく増加しています。
営業利益率はこの12年間では変わりありません
営業利益と純利益は2014-12期以降に大きく増加しています。
一方で、2011-3~2013-3期にかけて営業利益・純利益・営業利益率が大きく落ち込んでいます。


疑問

  • なせ売上と利益が2014-3期以降に大きく増加したのか
  • 2011-3~2013-3期にかけての不振の原因は何か


次は減価償却費やのれん償却費の増加によって営業利益が減っている可能性を考慮して、償却前利益について確認します。



以下のグラフは償却前利益の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


業績が落ち込んだのは、減価償却やのれん償却費の増加が原因ではありませんでした。


有価証券報告書の業績に関する記述を確認すると「価格競争の激化」「殺虫剤市場の縮小」といった記載があるので、単純に本業が不調だったようです。

セグメントの業績は、次のとおりであります。
①日本
 家庭用品部門の花粉対策商品が厳冬により大幅な市場の縮小の影響を受けたことや、想定以上の返品による家庭用品部門の不振がありました。また、新製品が売上に寄与しましたが、価格競争激化の影響を受けた殺虫剤部門及び期初からの天候不順及び東日本大震災による園芸用品部門の不振も重なり、売上高は171億94百万円(前年同期比11.3%減)となりました。なお、セグメント損失は14億70百万円(前年同期はセグメント利益1億42百万円)となりました。

2012-3期の有価証券報告書より引用

セグメントの業績は、次のとおりであります。
①日本

 アルコール関連商品の出荷が堅調に推移したことと、花粉関連商品の返品が大幅に減少したことにより家庭用品部門は好調に推移しました。しかし、殺虫剤部門では新製品が売上に寄与しましたが、最盛期の天候不順による市場の縮小や価格競争激化の影響を受け、また価格競争激化の影響を受けた園芸用品部門の不振も重なり、売上高は166億4百万円(前年同期比3.4%減)となりました。なお、セグメント損失は8億6百万円(前年同期はセグメント損失14億70百万円)となりました。

2013-3期の有価証券報告書より引用


海外事業については特に不調であるといった記載はありませんでした。主に国内の問題です。
国内の殺虫剤市場では大してシェアを持っていないので価格競争になると辛いということですね。

部門別の売上構成推移

以下は部門別の売上構成です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


2014-3期以降、殺虫剤部門の売上が大きく増加していることがわかります。
さて、この増加は国内事業によるものなのでしょうか、それとも海外事業によるものなのでしょうか。

フマキラーは殺虫剤部門のみが海外で事業を展開しています。
ここでは海外売上はすべて殺虫剤部門の売上だと仮定して、殺虫剤部門の売上を国内と海外で分けてみます。


上記の仮定の下作成したグラフが以下です。

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有価証券報告書よりグラフを作成

注意

  • 海外売上はすべて殺虫剤部門の売上だと仮定してグラフを作成している
  • 「国内殺虫剤の売上 = 殺虫剤部門の売上 - 海外の売上」として算出している


2014-3期以降、海外の殺虫剤部門の売上が大きく増加しています。
フマキラーの売上が2014-3期から増加したのは、海外の殺虫剤部門が売上を牽引したからです。

国内の殺虫剤部門や他部門の売上も増加していますが、海外の殺虫剤部門の増加と比較すると小さな値となっています。

資産

以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。

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総資産が大きく増加しています。
自己資本比率は2017-3期まで低下し続けていましたが、2018-3期に40%まで回復しています。
これは2018-3期に自己株式を売却し資金調達したためです。


以下のグラフは資産と負債の内訳推移です。

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2013-3に資産無形固定資産が大きく増えていますが、これはのれんおよび商標権が増加したためです。
テクノピア及びテクノピアジャカルタを買収した影響です。


以下のグラフは自己資本の内訳推移です。

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2012-3から2013-3は本業が不調だったため利益剰余金が減少していますが、それ以降は順調に利益が積みあがっていることがわかります。
また、2018-3期に自己株式を売却した結果、資本金および資本剰余金が増加しています。


キャッシュフロー

全体

以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。

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注意

  • 財務CFの「連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出」を投資CFに記載している

ぱっと見の印象はよくありません。営業CFが安定してプラスになっていませんし、有利子負債が多いからです。
2018-3期の有利子負債は114億円、営業CFは14億円なので大体営業CFの8倍程度です。
しかし、運転資本の増加によって営業CFが20億円ほど減少しているので、それを考慮すると3.3倍程度となります。
有利子負債は多いように見えますが、適正よりもやや多い程度と判断します。

営業CF

以下のグラフは営業CFの推移です。

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運転資本の増減が大きいので営業CFの値はガタついていますが、税引き前・減価償却前利益は増加傾向にあります。


運転資本の増減内訳は以下の通りです。

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2015-3~2018-3期の営業CFの伸びが悪いのは、売上債権と棚卸資産が増加しているからです。積極的に製品を生産し、販売しているということなので問題視する必要はありません。
ただし、不良在庫や不良債券が発生しないことが条件ですが。


投資CF

以下のグラフは投資CFの推移です。

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注意

  • 財務CFの「連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出」を投資CFに記載している


2011-3期と2013-3期の財テクは定期預金の預け入れと払い戻しであり、気にする必要はありません。


フマキラーは2013-3期および2017-3期に買収をしていることがわかります。
以下は買収内容です。

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テクノピアとテクノピアジャカルタの買収については決算説明会資料に説明があります。

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決算説明会資料より引用

財務CF

以下のグラフは財務CFの推移です。

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注意

  • 財務CFの「連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出」を投資CFに記載している


2018-3期に自己株式売却で調達した資金の使い方について注視していく必要があります。


また、2011-3期の増資はエステーとの資本業務提携によるものです。アース製薬に対する買収防衛策です。

平成22年5月 エステー株式会社と資本業務提携契約を締結。翌月に第三者割当増資により、資本金を36億9,868万円に増資

有価証券報告書より引用
 

以下は有利子負債の内訳です。有利子負債のほとんどが借入金です。

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短期の借入が圧倒的に多いです。

地域別の売上と利益

以下は地域別の売上と利益率です。

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注意

  • 2009-3から2010-3の東南アジアにはインドが含まれている
  • 2010-3までは営業利益、それ以降はセグメント利益を利益として記載


国内・海外ともに売上が増加しています。特に2014-3期以降の海外売上の増加が顕著です。
利益率は海外のほうが国内に比べて高くなっています。


以下は地域別の売上構成です。

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注意

  • 2009-3から2010-3の東南アジアにはインドが含まれている


海外売上比率が増加しており、2018-3期の時点で40%を超えています。


以下は地域別の利益構成です。

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注意

  • 2009-3から2010-3の東南アジアにはインドが含まれている
  • 2010-3までは営業利益、それ以降はセグメント利益を利益として記載


国内の利益は2011-3~2014-3期にかけて落ち込んでいますが、海外はそうなっていません。
また、2014-3期以降、海外の利益が大きく増加しています。


まとめ

国内の家庭用殺虫剤市場のシェアは

  • アース製薬 54.4%
  • キンチョウ 19%
  • フマキラー 15.5%

でありアース製薬の一人勝ちです。

フマキラーは十分なシェアを持たないため利益が安定せず、国内事業は厳しいです。実際に2012-3~2013-3期は競争激化により赤字となっています。さらに、人口動態の予測から国内市場は衰退していく可能性が高いです。
現時点(2018-3期)では国内事業は調子がよく利益を上げることができていますが、国内事業の利益については割引いて評価しなくてはなりません。有利子負債は適正よりもやや多いと判断しましたが、国内事業の営業CFを割引いて考えると、多い部類に入るかもしれません。

一方で、海外の家庭用殺虫剤事業は今のところ利益が安定しており、売上・利益ともに成長しています。
アース製薬の海外売上は約100億円(このうちどの程度が殺虫剤かは不明)、フマキラーは約200億円なので海外展開ではアース製薬の先をいっています。
海外売上比率も40%と高く、東南アジアの殺虫剤市場は拡大していくはずなので、東南アジアでうまくやれば、まだまだフマキラー成長できます。


今回はここまでです。