事業内容
事業概要
OATアグリオは農薬や肥料といった農業資材の製造・販売を主な事業として営んでいます。同社は農薬の有効成分である原体の開発から製剤の製造・販売までを一貫して手掛ける研究開発型メーカです。
OATアグリオの取り扱う製品は「防除技術(農薬)」「施肥灌水技術(肥料)」「バイオスティミュラント」の3つに分類されており、それぞれ以下のようなサービスを顧客に提供しています。
区分 | 内容 |
---|---|
防除技術(農薬) | 農薬の研究開発及び製造を行い、全農および商社へ販売している。主に殺虫剤、殺菌剤、除草剤を取り扱っている。 |
施肥灌水技術(肥料) | 施設園芸農家向けに養液土耕栽培システムと肥料の販売をしている。養液土耕栽培システムは作物に必要な時に必要なだけ水と肥料を供給できるシステム。供給は自動で行われる。また、施設栽培向けに液体肥料を販売している。水耕栽培分野では一定のシェアを確保。主に野菜や果物向け。 |
バイオスティミュラント | 植物本来の能力や機能を高め、耐寒性・耐暑性・病害虫耐性及び成長促進を促す農薬(バイオスティミュラント)の開発・製造・販売を行っている。 |
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同社については以下のIR訪問レポートが詳しいので、一読されることをお勧めします。
以下は2018年12月期の品目別の売上構成です。
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農薬が売上の7割近くを占めており、肥料・バイオスティミュラントは3割程度にとどまります。
以下は2018年12月期の地域別の売上構成です。
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売上の半分が海外であることがわかります。
業績推移
売上と利益
以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。
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売上・営業利益・純利益ともに増加しています。一方で2018-12期は減益となっています。
2018-12期の営業利益率は11.5%あり、高いです。
2018-12期の減益理由について、有報には買収企業の取得関連費用や試験研究費といった費用が先行発生したとあります。取得関連費用の先行分は1.79憶円(Blue Wave holdings B.V.は取得費用が発生しているが業績は連結財務諸表に含まれていない)かかっています。試験研究費についてはちょっとわかりません。2018-12期の営業利益の減益額は1.18憶円であり、これらの先行費用がなければ少なくとも減益にはなっていませんでした。
以下のグラフはROAとROEの推移です。
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ROE・ROAともに上昇傾向にあります。2018-12期のROEは約18%あり、非常に高い水準です。
財務レバレッジは低下傾向にありましたが、2018-12期に大きく上昇しています。これは買収のために多大な借入をしたからです。
品目別の売上推移
以下は品目別の売上構成および売上増加量の推移です。
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「農薬」「肥料・バイオスティミュラント」ともに売上が増加しています。一方、増加率では「肥料・バイオスティミュラント」のほうが高く成長著しいことがわかります。
地域別の売上推移
以下は地域別の売上構成の推移です。
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国内の売上が横ばいである一方で海外の売上は増加しています。海外売上比率も上昇しており、2018-12期は47%です。
資産
以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。
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総資産額は2017-12期まで緩やかに増加し、自己資本比率も上昇傾向でした。
しかし、2018-12期に大幅に総資産額が増加し、自己資本比率は急激に低下しています。
2018-12期の自己資本比率は22%程度と低いです。
以下のグラフは資産の内訳推移です。
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2018-12期に無形資産が一気に増加しています。これはのれんです。のれんは約106憶円程度あります。
のれんの増加の理由は海外の会社を買収したためです。
以下のグラフは負債の内訳推移です。
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自己資本が着実に積みあがっています。また、有利子負債は2018-12期に急激に増加しており約166億円あります。
有利子負債は非常に多いです。さらに、2018-12期の自己資本59億円に対して、のれん106億円となっており、減損によって自己資本が大きく傷つくリスクもあります。
以下のグラフは自己資本の内訳推移です。
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自己資本の増加は利益剰余金の増加によるものであり健全です。
キャッシュフロー
営業CF
以下のグラフは営業CFの推移です。
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棚卸資産・売上債権の増加によってここ2年の営業CFが減少しています。
以下のグラフは売上債権および棚卸資産の回転月数の推移です。
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それぞれ4か月を超えており、数値も悪化していることがわかります。買収による影響もあると思いますが、有報では農薬の販売が思わしくない旨の記載があるためいい状況にはないと判断しています。
投資CF
以下のグラフは投資CFの推移です。
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買収に巨額の資金を投じていることがわかります。
以下の表は同社の主な買収内容です。
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2018年の買収でのれんが93憶円程度発生しており、2019-12期以降ののれん償却費は7億円程度増加します。買収した会社の営業利益(LIDA社とCAPA社はEBITDA)も同程度であるため、のれん償却費によって利益が減少することはなさそうです。この買収の目的としては以下が考えられます。
- 研究開発費の確保(研究開発費高騰への対応)
- Blue Wave holdings B.V.の全世界に広がる販売チャネルの入手
- 規模拡大と合理化によるコスト削減(農薬の価格競争への対応)
- 海外展開の加速(国内農薬市場悪化の懸念への対応)
買収額は大きいですが、農薬事業の環境変化に対応するためには適切な買収であるといえます。
財務CF
以下のグラフは財務CFの推移です。
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2018-12期に買収のために大きな借入をしています。
以下のグラフは財務CF中の株主関連収支の内訳です。
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特に気になる点はありません。
全体
以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。
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2018-12期に大きな買収をしており、そのために有利子負債が急増しています。2018-12期の有利子負債は166憶円で、営業CFは仮に20億円くらいあるとしても8年分を超えており、有利子負債が非常に多いです。買収規模が非常に大きく、社運がかかっています。のれんも大きく増加しており、のれんの減損リスクもあります。また、最近の営業CFの落ち込みも懸念点の一つです。ただ、意味のある買収であり、今後同社が成長していけるのか楽しみです。
まとめ
OATアグリオは売上と利益を安定して成長させています。
2014-12~2018-12期については
- 売上が114億円から153億円となり、39億円増加、+34%、年平均7~8%成長
- 営業利益が6.6億円から12.6憶円となり6憶円増加、 +91%、年平均17~18%成長
となっています。
2018-12期の営業利益率は11.5%と高いです。しかし、2018-4期決算は増収減益となっています。これは大型買収に伴う先行費用のためであると考えられます。
同社は海外展開を推し進めており、2014-12期の海外売上比率は24%でしたが2018-12期には47%まで増えています。国内売上がほぼ変わっていませんが、海外売上は一貫して増加しています。さらに、2018年に同社は大きな買収を行っており、その投資金額は107.8憶円(取得費用含む)と巨額です。のれんは92.8憶円で買収価格が高すぎるようにも映ります。しかし、今回の買収の目的は以下であると考えられ、農薬事業の環境変化に対応するためには適切な買収であったと評価できます。
- 研究開発費の確保(研究開発費高騰への対応)
- Blue Wave holdings B.V.の全世界に広がる販売チャネルの入手
- 規模拡大と合理化によるコスト削減(農薬の価格競争への対応)
- 海外展開の加速(国内農薬市場悪化の懸念への対応)
もちろん、巨額の買収であったため有利子負債・のれんが大きく増加しており、財務的なリスクは高まっているといえます。例えば、自己資本比率は22%程度まで低下しているし、のれんが純資産よりも多くなっている。また、棚卸資産および売上債権回転月数も悪化しています。したがって、今後の同社の動向には注意が必要です。
したがってOATアグリオの今後の見どころは
- 買収のシナジーを発揮して成長を加速させることが出来るのか
- 有利子負債を返していけるのか、のれんの減損が発生し株主資本を傷つけることはないか
- 棚卸資産および売上債権回転月数は今後改善するのか
あたりだと考えています。
また、同社は2019年12月決算期の業績予想を大幅に下方修正しています(2019年12月17日にIRより発表された資料より)。
具体的には売上が229.95憶円から219.96憶円に-9.99憶円(-4.3%)、営業利益が18.69憶円から10.93憶円に-7.76憶円(-41.5%)の下方修正となっています。
営業利益の下方修正の主な要因は
- 農薬などの売上が思わしくなかったこと
- 買収に伴う取得原価の配分の影響(4.8億円)
- 買収後のJ-SOX対応および財務手数料
営業利益の減益7.76憶円、少なくとも4.8憶円分は一過性のものであるとわかっており、今後の業績に大きな影響を与えるものではないと判断しています。
今回はここまでです。