注意
同社はホテルを新規出店する際にオペレーティングリースを活用しています。同社のオペレーティングリース取引のうち解約不能の未経過リース料は2019-6期時点で約180億円であり、これは同社の2019-6期時点の総資産189憶円とほぼ同等の金額です。この簿外債務を考慮せずに同社の資産や負債について述べることは難しいと判断し、本ページでは解約不能の未経過リース料を有形固定資産、有利子負債に合算しグラフを作成しています。したがって、本ページ記載の資産、負債額等は有価証券報告書に記載されている額とは異なりますのでご注意ください。
事業内容
グリーンズは全国でホテル業を営んでいます。グリーンズは世界トップクラスのホテル軒数を誇るホテルチェーンであるチョイスホテルズとマスターフランチャイズ契約を結んでおり、チョイスホテルズブランドのホテルを全国に展開しています。また、グリーンズ独自ブランドのホテルを中部および近畿地方を中心に展開しています。同社の事業はチョイスホテルズに加盟するホテルを運営する「チョイスホテルズ」事業と独自のホテルを運営する「グリーンホテルズ」事業の2つに分類できます。
以下は同社が展開するホテルの一覧です。同社のホテルは2019年6月決算期時点で全国に95店あります。
IR資料(2019年の年次レポート)より引用
独自のホテルよりも、チョイスホテルズブランドのホテルのほうが多いです。
以下は2019年6月期の部門別の売上構成です。
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売上も多くがチョイスホテルズブランドのホテルによるものです。
以下は同社創業以来のホテル数および売上の推移です。
IR資料(2017年6月期決算の決算説明会資料)より引用
チョイスホテルズとマスターフランチャイズ契約を交わした2003年ごろからホテル数と売上が急速に増加しており、チョイスホテルズ事業が同社の成長ドライバーであると考えられます。また、チョイスホテルズは世界的なホテルチェーンであり、チョイスホテルズの会員サイトから外国人観光客の送客が見込めるのであればチョイスホテルズ事業の売上や利益は安定しそうです。
ただし、フランチャイズ契約にもデメリットはあります。フランチャイズフィーはさることながら、本部の定める新規出店数を満たすことができなければ契約の解約条件に抵触するため絶えず新規出店しなくてはなりません(相当のフィーを支払えば1年間の猶予が与えられます)。現状では訪日外国人が増えているためホテルの需要も増加しており問題なさそうですが、それが見込めなくなった際にどうなるかはかなり不安です。ただ、当面の間は訪日外国人は増えるだろうし、同社以上にメリットのある契約先がなければ解約されることはないだろうし、そこまで心配しなくてもいいのかもしれませんが。
業績推移
売上と利益
以下のグラフは売上と経常利益率、経常利益、純利益の推移です。
有価証券報告書および決算説明会資料よりグラフを作成
売上も利益も増加しています。2019-6期の経常利益率は7.9%とやや高いです。2013-6期および2014-6期の純利益が極めて少ないのは財務リストラの影響です。2009年8月から2013年7月にかけて同社は財務リストラの実施を目的として三重県中小企業再生支援協議会による再生支援を受けており、支援が終わった後も2014-6期までは財務リストラを行い不採算店の閉鎖などを行っていたと思われます。
また、2015-6期以降、売上は増加していますが利益は伸び悩んでいます(増えていないわけではない)。世界的なホテルチェーンブランドの加盟店を展開しているのだから、利益もそこそこ出るのではないかと思っていたのですが、出店のイニシャルコストが重いということでしょうか。原因はよくわかりません。
コストについてわかるのは2017-6期以降なのでそれ以前についてはわからないですが、2017-6期以降の利益率の低下は「賃借料」および「開示されていない経費や販管費」によるものです。この2つで1.9%の利益率低下要因となっています。「外注費」も増加していますが「人件費」と相殺されています。
以下のグラフはROAとROE、財務レバレッジの推移です(ただし、2017-6期以降のもの)。
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財務レバレッジはやや上昇、ROAとROEは低下しています。
セグメント別の売上推移
以下は部門別の売上構成、売上増加量の推移です。
有価証券報告書および決算説明会資料よりグラフを作成
「チョイスホテルズ」事業の売上が大きく増加しており、同社の売上成長は同事業によるものだとわかります。また、2015-6期から2019-6期にかけての売上成長率は「チョイスホテルズ」事業が42%、「グリーンホテルズ」事業が24%であり、成長率でも「チョイスホテルズ」事業のほうが高いです。
以下は部門別のホテル数および客室数です。
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チョイスホテルズのホテル数および客室数が大きく増加しています。
以下は部門別の客室稼働率です。
IR資料(2019年6月期決算説明会資料)より引用
客先稼働率はかなり高い水準にあることがわかります。チョイスホテルズのほうがグリーンホテルズより客室稼働率は高いです。また、客先稼働率は両部門ともほぼ横ばいと評価できます。
以下は部門別の客室単価です。
IR資料(2019年6月期決算説明会資料)より引用
客室単価はそれぞれ増加傾向にあります。
資産
以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。
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総資産額は増加しています。一方で、自己資本比率は横ばいです。2019-6期の自己資本比率は約30%でありやや低い水準です。
以下のグラフは資産の内訳推移です。
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資産の多くが有形固定資産であり、ホテルにかかわるものです。有形固定資産が大きく増加していますが、オペレーティングリースによるものです。
以下のグラフは負債の内訳推移です。
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自己資本が増加しています。また、有利子負債も増加しています。有利子負債のうち借入は減少していますが、オペレーティングリースが増加しています。
以下のグラフは自己資本の内訳推移です。
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自己資本の増加は利益剰余金の増加によるものであり健全です。
以下のグラフはオペレーティング・リースのうち解約不能の未経過リース料です。
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簿外債務は大きく増加しています。
キャッシュフロー
営業CF
以下のグラフは営業CFの推移です。
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2017-6期以降の営業CFは横ばい。
投資CF
以下のグラフは投資CFの推移です。
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投資のほとんどが設備投資。
以下のグラフに投資CFのうち設備投資の支出のみを抜き出し、図示します。
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設備投資のうち多いのが有形固定資産の取得と差入れ保証金の差入です。つまり、ホテルへの投資です。年によって投資額が違いますが、少なくても8億、多いと18億程度投資しています。
以下の表は「有報の設備投資の状況」の内容をまとめたものです。
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表中の投資金額は投資CFの設備投資金額とおおよそ一致。
財務CF
以下のグラフは財務CFの推移です。
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同社は借入を減らしていることわかります。ただ、簿外債務は増えているので、銀行から資金を調達するよりもREITや不動産オーナーから資金を調達していると考えることもできます。
全体
以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。
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短期間のデータなので評価が難しいですが、営業CFはプラスであり経営状態は良いといえます。ただ、オペレーティングリースによって新規店舗を増やしている割には(返済責任が増加している割には)営業CFは成長しておらず、少し気になります。
まとめ
グリーンズの2019-6期の売上は309憶円、経常利益は24億円、経常利益率は7.9%でした。
過去6年間の平均の売上成長率は6%、経常利益成長率は14%でした。
同社はホテルを出店することで着実に成長しているといえます。同社は世界的なホテルチェーンであるチョイスホテルズとフランチャイズ契約を結んでいます。そのため、チョイスホテルズの会員サイトからの集客をおそらく見込めるので経営は安定すると思われます。しかし、グリーンズは割り当てられた新規出店数を達成しないと契約解除される可能性があり、リスクもあります。ホテル業界の市場規模が頭打ちになった際にどうなるのか不安ではありますが、訪日外国人の数はこれからもしばらくは増加すると思われるのでそれほど心配する必要はないのかもしれません。
売上についてはコンスタントに成長していますが、利益は2015-6期以降やや伸び悩んでいます。もしかしたら何かしら問題があるのかもしれませんが、同社は成長のために大きな投資をしており、それに伴った利益率の低下は十分にあり得る話なので気長に見ていくべきだと考えています。
新型コロナウイルス流行が同社の業績に与える影響についてですが、2020年6月期 第3四半期決算は赤字となっており、思わしくありません。
したがって同社の今後のみどころは
- 利益の成長が今後みられるか(なんで2015-6期以降に伸び悩んでいるのか)
- 観光業やホテル業が厳しい中、資金ショートを起こさずに持ちこたえられるのか
あたりかなと考えています。
今回はここまでです。