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扶桑化学工業 事業内容と業績推移

事業内容

扶桑化学工業はリンゴ酸などの果実酸や半導体研磨剤材料の製造販売を主な事業として営んでいます。同社の事業は「ライフサイエンス」「電子材料および機能性化学品」の2つのセグメントに分類できます。国内唯一のリンゴ酸メーカであり、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸など果実酸類を製造する果実酸総合メーカです。また、同社は半導体向けの研磨剤原料用途として利用されている超高純度コロイダルシリカといった電子材料も製造しています。


各セグメントの内容は以下の表のとおりです。

セグメント 内容
ライフサイエンス リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸等の果実酸類および無水マレイン酸等の有機酸を取り扱っている。果実酸類は飲料、加工食品に使用する酸味料、pH調整剤、酸化防止剤等の食品分野での用途を中心に、洗剤、化粧品、表面処理剤、コンクリート用混和剤、電子機器等の工業分野での用途に至るまで幅広く使用されている。また、果実酸等の当社グループ製品を原料として、食品分野、工業分野に幅広く用途開発する応用開発商品も取り扱っている。 麺食品の品質改良剤、加工食品の日持ち向上剤、食品製造メーカーにおけるトータル・サニテーション、 金属加工の改善などに用いられている
電子材料および機能性化学品 電子材料としては主に研磨剤原料用途として利用されている超高純度コロイダルシリカを取り扱っている。この製品は半導体業界を中心に需要があり、微細化、高集積化される次世代半導体集積回路の製造に必要なCMP(化学的機械的平坦化)スラリーにも対応している。機能性化学品としてはプラスチック、塗料の添加剤および香料、化粧品の原料としての用途に使用される樹脂添加剤や、精密化学薬品製造の技術を活かしたファインケミカルを販売している

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以下は2020年3月期のセグメント別の売上および利益構成です。

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同社は食品分野のイメージが強いのですが、実際には「電子材料および機能性化学品」事業でより多くの利益を稼いでいます。そのため、半導体市況の影響を大きく受ける景気循環株の性質があるといえます。


以下は2020年3月期の地域別の売上および利益の構成です。

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海外の売上は4割程度です。


業績推移

売上と利益

以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。

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売上と利益がともに成長しています。2020-3期の営業利益率は21.4%であり非常に高い水準です。同社は2015-3期以降に大幅に利益を伸ばしています。2006-3期時点の営業利益率は7.8%あり、製造業としては高い水準にありましたが、そこから更に利益率が上昇しています。後述しますが、これは半導体向けの電子材料で大きな利益を出すことができたためです。一方、2009-3期は大幅な減益となっており、景気循環性があることもわかります。



以下のグラフはROAとROE、財務レバレッジの推移です。

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ROEは11.6%あり、高い水準にあります。財務レバレッジが2009-3期以降大きく下降しています。業績が良く借入に頼らずとも成長投資に係る資本を調達できたということです。

セグメント別の売上および利益

以下はセグメント別の売上構成および増加量です。

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いずれのセグメントも同程度売上が増加しています。一方、売上の成長率では「電子材料および機能性化学品」事業のほうが高いです。



以下はセグメント別の利益構成および増加量です。

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「電子材料および機能性化学品」事業のほうが利益が大きく、増加量も多いです。一方、「ライフサイエンス」事業は利益は比較して少ないものの着実に増加しています。「ライフサイエンス」事業は景気動向にそれほど業績が左右されておらずディフェンシブな性質があるといえます。


地域別の売上

以下は地域別の売上構成および増加量、増加率です。

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海外売上比率はこの14年間で10%上昇しています。日本、アジア、北米のいずれも売上が増加していますが、特にアジアの売上増加率が高いです。


資産

以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。

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総資産は2015-3期以降増加しています。自己資本比率は2009-3期から上昇傾向にあり、2020-3期の自己資本比率は87%と非常に高い水準です。


以下のグラフは資産の内訳推移です。

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有形固定資産が多いです。特に2018-3期から有形固定資産が大きく増加しており、成長投資を加速させていることがうかがえます。また、2016-3期以降はそれ以前と比較して現金の保有量が増えており、業績が良いことがわかります。



以下のグラフは負債の内訳推移です。

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2009-3期から有利子負債が減少し、2016-3期からは全くなくなっています。事業の維持、成長投資のための資本のかなりの部分を本業から生み出していることがわかります。後述しますが、同社は成長投資のために2016-3期に増資を行っています。金額はおおよそ60億円です。


以下のグラフは自己資本の内訳推移です。

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利益剰余金の増加によって自己資本が積みあがっており健全です。


キャッシュフロー

営業CF

以下のグラフは営業CFの推移です。

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営業CFは成長しています。


投資CF

以下のグラフは投資CFの推移です。

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投資CFはほぼ設備投資等です。


以下のグラフに投資CFのうち設備投資の支出のみを抜き出し、図示します。

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有形固定資産の取得が大半を占めています。2018-3期以降は投資額が大きく増えていることがわかります。


以下の図及び表に有報記載の「設備投資の状況」の内容をまとめました。

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「電子材料および機能性化学品」事業に対する投資が圧倒的に多いです。「電子材料および機能性化学品」事業は稼ぎ頭である一方で金食い虫であることがわかります(減価償却前利益比では「ライフサイエンス」事業とそこまで変わらないですが)。一方、「ライフサイエンス」事業に対する投資は2018-3期以降は積極的に行われていますが。これは鹿島新工場に対するもので成長投資です。


以下は主な買収の一覧です。

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設備投資と比較して買収額が小さく、同社は有機的な成長を志向していることがわかります。同社は三井化学より有機酸事業を譲り受けており、これを元に鹿島新工場を立ち上げています。鹿島工場の新設には

  • 無水マレイン酸からリンゴ酸までを一貫して生産する体制を整えること
  • 省力化した最新設備を用いた生産体制に移行すること

によってコスト競争力を強化する狙いがあり、世界一のリンゴ酸メーカへの大きな飛躍を目指しています。

財務CF

以下のグラフは財務CFの推移です。

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資金調達の方針が大きく変化しています。2016-3期までに借入をほぼ返済し、それ以降の成長投資には増資を活用しています。市場変更に伴って増資しただけで、本業からの収益だけで資本調達できるから借入をしなくなったということかもしれませんが。


以下は投資CF中の株主に関するCFの内訳です。

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本業の収益性向上にともなって配当金の支払い額も増えています。


全体

以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。

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営業CFはプラスであり、成長しています。現金が増える一方で有利子負債が大幅に減少しています。経営が上手くいっている会社の典型的なCFです。

まとめ

扶桑化学工業の2020-3期の売上は413憶円、営業利益は88億円、営業利益率は21.4%でした。14年間の平均売上成長率は3.8%、営業利益成長率は11.6%でした。

同社はリンゴ酸を国内で唯一製造する果実酸総合メーカであり、リンゴ酸の世界市場は年率3~5%以上の成長を見せており、事業環境は良いです。

  • 2003年に旧藤沢薬品工業よりグルコン酸を含む化成品事業を譲り受け
  • 2014年に三井化学より、無水マレイン酸、フマル酸を含む有機酸事業を譲り受け
  • 2018年に日本触媒がフマル酸事業から撤退

のようにライバルが事業から撤退しており、その穴を埋める形で同社は国内事業を拡大しています。シェアのデータがないので何とも言えませんが、国内市場の寡占化が進み、同社にとって有利な環境となっているのではないかと思っています。また、鹿島工場の新設によってリンゴ酸の生産体制を強化しており、アジア圏のリンゴ酸需要の成長に伴って、果実酸総合メーカとして業績を伸ばしていくことが期待されます。鹿島工場は2021-3期の上期に3回の連続生産を実施、2021-3期中にはフル生産となる見込みであり、業績への寄与はもう少し先になりますが (2021-3期2Q決算説明会資料より)。


また、同社はシリコンウエハの最終研磨工程向けの研磨剤材料として超高純度コロイダルシリカを製造販売しており、8割以上のシェアを有しています。半導体業界は自動車と産業機械がけん引役となって今後も成長していくことが予想されており、事業環境は良いです。また、配線微細化が進んでおり、同社の超高純度コロイダルシリカへの需要は今後ますます高まる可能性があります。同社は超高純度コロイダルシリカの供給力強化のため鹿島工場に製造設備を新設し、2023年4月までに追加で180億円の投資を計画しています。


果実酸分野ではあまり心配していないのですが、半導体は技術進歩が激しい分野であるため、同社の事業の収益性が維持できるのかやや不安ではあります。半導体は景気循環の影響を大きく受けるので、投資に踏み切ったとたん大減速という可能性もあり、大きな投資をしている分、リスクは高いかなと思っています。経営者はそこら辺のことを十分考慮したうえで事業計画を出しているわけで余計なお世話だとは思いますが。あと、「ライフサイエンス」事業と「電子材料および機能性化学品」事業は別々に評価したほうがいいでしょう。あまりにも収益の性格が異なるので。


今回はここまでです。