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日本動物高度医療センター 事業内容と業績推移

事業内容

概要

日本動物高度医療センターは犬や猫といったペット向けの高度医療サービスを提供しています。同社は主に「2次診療サービス」「画像診断サービス」の2種類のサービスを提供しています。それぞれのサービスの内容は以下の表のとおりです。

サービス 内容
2次診療サービス 日本動物高度医療センターがサービスを提供。一次診療施設(飼い主のかかりつけ医)からの紹介を受け、特定の専門分野を持った獣医師が、高度な医療機器を使用して行う、診察、検査、投薬、手術等の診療サービス。診療費の支払いは飼い主が行う。1次診療施設からの紹介料は受け取っていない。2021-3期時点での事業所は川崎本院、名古屋病院、東京病院の3か所
画像診断サービス 同社の連結子会社である株式会社キャミックがサービスを提供。一次診療施設からの紹介を受け、専門知識を有する獣医師が、高度な医療機器を使用して行う、画像の撮影・読影・診断等のサービス。診療費の支払いは飼い主が行う。1次診療施設からの紹介料は受け取っていない。2021-3期時点での営業所は東京都に3か所、埼玉県に1か所

有価証券報告書より表を作成



2次診療サービスが売上のおよそ8割を占めており、同社は主に「2次診療サービス」に注力しています。

事業の特徴

大きく分けて同社の事業には以下2つの特徴があります。

  • 高度医療の提供に特化している
  • 連携病院制を採用しており、1次診療施設と連携してサービスを提供している


 同社は高度医療の提供に特化しています。診療は完全紹介制であり、顧客のかかりつけの動物病院(1次診療施設)からの紹介によって診療を行い、診療後のケアは1次診療施に要請する形をとっています。このことによって同社は自身の得意とする高度医療の提供に集中することができ、サービス品質や利益率向上の一助になっていると考えられます。

 また、同社の連携病院は2021年3期時点で3928病院あり(全国の動物病院のおよそ3割から4割に相当する)、強力な集客システムとして機能しています。

 さらに、連携病院制は同社にとってのみならず1次診療施設にとってもメリットがあります。多くの場合、1次診療施設は高度な医療設備を所持しておらず、獣医師も1人程度であることが大半であり、ガンなどの重篤な病気に対応することが難しいです。しかし、同社と連携することで重篤な病気にも対応でき、予後のケアは1次診療施設が対応するため同社と競合することもありません。加えて同社は連携病院向けに「ウェブサイトにおける連携病院としての紹介」「学術情報等の提供」「診療手術への参加」「同社施設の利用(有料)」等のサービスの提供を行っています。

競争環境、競争優位性について

 高度医療提供のためには多大な設備投資、高度な技術が必要であり、参入障壁は高いです。また、連携病院制によって1次診療施設との競争を回避しており、この制度には顧客を囲い込む効果もあるため競争優位性も有していると評価しています。さらに、高度医療の提供に特化していることはサービス品質の向上の一因となるため、これも差別化につながりうると評価しています。

 2020年12月31日時点での動物病院の数は12247院で、そのうち10924院が獣医師1人~3人程度の小規模な病院です。獣医師が10人を超えるような大規模な動物病院は302院しかなく、同社の競合となりえる病院の数は多くありません。2018年1月に同社の東京病院が開業してから早い段階で業績に寄与している点から現時点では競争は激しくないか、競争優位性が機能しているため競争環境は良いと評価しています。ただし、大規模な動物病院は年々増加しており、将来競争が激しくなる可能性は十分にあります。また、犬猫の飼育頭数は減少傾向にあるため、いずれは高度医療サービスの需要は縮小していくはずです。その中で同社の事業が上手くやっていけるのか、ダメになってしまうのかは今のところ分かりません。


 将来の同社の事業に影響を及ぼす要因は以下の通りです。

  1. ライバルとなる大型動物病院の増加
  2. 高度医療への特化および連携病院制による競争優位性が維持できるか否か
  3. 犬猫の長寿化・高齢化に伴う高度医療サービス需要の増大
  4. 犬猫飼育頭数の減少に伴う需要の減少
  5. ペット保険普及による高度医療サービス利用機会の増大


それぞれの要素に対するわたしの考えは以下の表の通りです。

要素No 考え
1 高度医療への参入障壁は高く、同社のように総合診療可能な動物病院となるとさらに難しい。2020年段階で獣医師が10人以上の大規模な病院は年に5~8%程度増加しているが、増加率は低減傾向にある。これらの動物病院が同社とどの程度競合するのかはわからない。同社の医療レベルは非常に高く、差別化できていると考えることもできるが過剰品質である可能性もある。農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況」から現時点の大規模病院の数は知ることが可能。ただし、同社と同水準の医療を提供できる動物病院の数はわからない
2 連携病院制による競争優位性は同社が1次診療施設へメリットを提供できている限り維持される。そう簡単には揺るがない。競争優位性が維持されているか否かをはっきり知る方法はないが、同社決算説明会資料で公開されている初診件数から現時点の連携病院制による集客能力を知ることは可能
3 犬猫の長寿化・高齢化による高度医療サービスの需要の将来予測は難しい。総務省統計局「家計調査」から1世帯当たり(2人以上)の動物病院への支出額を知ることができるのでおおよその目安としては使えそうである。現時点では支出額が増加傾向にあるので需要は増えているはず
4 犬猫飼育頭数の減少による高度医療サービスの需要の将来予測は難しい。3と同様に現時点での1世帯当たり(2人以上)の動物病院への支出額を知ることができる。また、農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況」から現時点の犬猫飼育頭数も知ることは可能
5 同社のIR資料からペット保険の普及が確実に進んでいることはわかる。ペット保険への普及率の出所が有料であるため、自分でチェックするのは難しいが、おおよそで良いのであればアニコムホールディングスとアイペット損害保険の総契約数の合算から普及が進んでいるかどうかは判断可能

 
将来の予測は難しいですが、各統計資料を確認することで現状については把握できそうです。参入障壁が高く、連携病院制による競争優位性は強固だと考えているため急激な状況変化は起こらないと考えています。現状はよく、それが悪化しないかを観察していくことが重要だということです。

動物医療業界に関する統計データ

動物病院数

以下は国内の動物病院数および増加率です。

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農林水産省 飼育動物診療施設の開設届出状況よりグラフを作成


動物病院数は増加し続けています。数の上では獣医師が1~3人の小規模な動物病院が大きく増えていますが、増加率では獣医師が10人を超える大規模な動物病院の伸びが大きいです。動物病院は規模の面で2極化が進んでいるといえます。また、動物病院の増加率は年々低下しており、動物病院は増えにくくなっています。


全て動物病院という風に記載しているのでイメージしにくいのですが、獣医師が1人~3人程度の動物病院は人間でいうところの診療所、獣医師が10人以上の動物病院は大学病院や総合病院と考えたらよいでしょう。獣医師が10人いる病院は動物病院としてはかなり大きいです。


以下は小規模な動物病院の例です。獣医師が1人の病院です。
横浜鶴見区の三ツ池動物病院|トリミング、ペットホテル
【動物病院ルーティーン】動物病院の一日を密着、定点カメラを設置しました。動物鍼灸治療も! - YouTube


以下は大規模な動物病院の例です。獣医師が10人の病院です。
東京医療センター|ダクタリ動物病院
今の動物病院こんなにすごい!病院の裏側に潜入!驚愕の発見!! - YouTube


1世帯当たりの動物病院への支出額

以下は1世帯当たり(2人以上)の動物病院への支出額推移です。

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日本動物高度医療センターの決算説明会資料および総務省による家計調査よりグラフを作成


単身世帯のデータはないし、高度医療費自体のデータはないのであくまでも参考にする程度ですが、年々動物病院への支出が増加しているのがわかります。高度医療費は高いので支出の増加に一役買っていると推測しています。2020年は前年と比較して横ばいですが、おそらく新型コロナウイルスの影響で支出が抑えられたのだと思います。景気の影響を受けるということでしょう。

犬猫の飼育頭数

以下は犬猫の飼育頭数です。

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一般社団法人ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査よりグラフを作成


犬の飼育頭数が大幅に減少していることがわかります。一方で猫は減少してはいるものの緩やかな減少となっています。犬猫の飼育頭数は減少しており、犬猫の医療サービスの需要が減少していくことが予見されます。


以下は飼育犬猫の年齢構成です。

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一般社団法人ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査よりグラフを作成


飼育犬の高齢化が進んでいる一方で飼育猫の高齢化はほとんど起きていません。



「10歳以上の高齢の犬猫が高度医療サービスの需要が大きい」という仮定のもとで高度医療サービスの需要が大きい犬猫の頭数がどの程度あるのかを推測しました。具体的には上記の犬猫の飼育頭数及び年齢構成を元に10歳以上の高齢の犬猫の頭数を算出しました。以下が高齢の犬猫の頭数です。


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一般社団法人ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査よりグラフを作成


高齢の犬猫の頭数は2007年以降、あまり変わっていないということがわかります。犬猫の飼育頭数が減少していますが、高齢の犬猫頭数は今後もそれほど減少しなさそうであり、高度医療サービスの需要は思ったよりも底堅いのかもしれません(高度医療サービスをたくさん利用するのが高年齢の犬猫であるという仮定が正しければですが)。また、高齢の犬猫頭数が減少しなさそうという根拠は現時点でより若い犬猫が高齢の犬猫よりも多数存在しているためです。

ペット保険の普及率

以下はペット保険の普及率です。

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日本動物高度医療センター 2021年3月期決算説明会資料 p18より引用


ペット保険の普及率がどんどん上昇していることがわかります。仮に日本がイギリス並みの普及率になるとすると、まだまだペット保険が適用される犬猫が増えていきそうです。


ペット保険の契約数はシェアードリサーチのアニコム ホールディングスのレポート(2021年6月18日更新 p35)に詳しくまとまっています。
シェアードリサーチ
 

業績推移

売上と利益

以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


売上、利益ともに成長しています。また、営業利益率は14%程度と非常に高い水準です。固定費が高いビジネスなので調子が良い時は利益率が非常に高くなりますが、一方で悪くなると一気に悪化する性質があります。売上の低下局面では注意が必要です。

会社別の売上と利益

以下は会社別の売上構成および増加量です。具体的には同社の単体決算と連結子会社キャミックの売上となっています。同社単体は2次診療サービス、キャミックは画像診断サービスの売上のことだと思ってください。

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有価証券報告書よりグラフを作成


同社単体の売上が大きく増加しており、2次診療サービスが売上をけん引していることがわかります。



以下は会社別の利益構成および増加量です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


同社単体の利益が大きく増加しており、2次診療サービスが利益をけん引していることがわかります。2018-3期の単体利益が思わしくないですが、これは2018年1月から開業した東京病院の費用負担が重かったからです。現時点で大阪病院の開業時期は2022年11月を予定していますが、それが正しければ2023年3期決算は減収となりそうです。



以下は地域ごとの連携病院数・シェアと同社動物病院の立地です。

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日本動物高度医療センター 2021年3月期決算説明会資料 p19より引用


同社の病院がある関東と東海の連携病院数やシェアが高くなっています。大阪病院の開院はほぼ決定事項なので、残り病院を作れそうなのは九州くらいでしょうか。新規病院を開院することによる規模の拡大はもう少し続きそうです。

連携病院数と集客数

以下は連携病院数及び1次診療施設からの集客数です。

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日本動物高度医療センター 2021年3月期決算説明会資料 p20,p6より引用


連携病院数が増加するのに伴って集客数(=初診件数)も増えていることがわかります。また、2019-3期に大幅に初診件数が増加していますが、これは東京病院開院に伴って周辺の開拓が進んだためです。同時期の連携病院数の伸びは平年並みなので、もしかしたら新しく動物病院ができたことによって潜在需要を開拓できたということなのかもしれません。

総診療件数と手術件数

以下は総診療件数と手術件数です。

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日本動物高度医療センター 2021年3月期決算説明会資料 p7より引用


総診療件数も手術件数も右肩上がりです。非常に調子が良いです。

資産

以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


総資産は増加しています。自己資本比率も上昇傾向にあり、2021-3期の自己資本比率は40%と標準的な水準です。


以下のグラフは資産の内訳推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


有形固定資産が非常に多いです。動物病院という事業がいかに設備投資が必要なのかがよくわかります。大阪病院への投資は残り12億程度あるはずなので今後2年くらいで更に有形固定資産は増加するはずです。



以下のグラフは負債の内訳推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


有利子負債が非常に多いです。ここ数年は減少傾向ですが、それでも2021-3期は総資産の半分以上が有利子負債です。大阪病院への投資のためには借入をするでしょうから今後は更に有利子負債は増えるはずです。一方で、自己資本がどんどん積みあがっています。今のところは有利子負債は多いですが危険な状況ではありません。ただし、金利上昇リスクや業績低迷の際にリスクが高いということは忘れないようにしたいです。


以下のグラフは自己資本の内訳推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


利益剰余金の増加によって自己資本が積みあがっており健全です。


キャッシュフロー

営業CF

以下のグラフは営業CFの推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


営業CFは成長しています。


投資CF

以下のグラフは投資CFの推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


投資CFはほぼ設備投資です。その主なものは新規病院の土地や設備、そして、既存病院の設備となっています。

財務CF

以下のグラフは財務CFの推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


ほぼ借入です。2018年1月の東京病院開院後は負債を返済していますが、大阪病院開院を控えているので2022-3は借入が増えるはずです。


以下は投資CF中の株主に関するCFの内訳です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


今のところ、株主から資金調達をしているだけです。自己株式を取得はしていますが、株主還元目的ではなくストックオプション制度のための取得のようにみえます。配当は出していませんが、いまは投資をするべき時期なので正しい姿です。


全体

以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


営業CFはプラスであり、成長しています。また、有利子負債が非常に多いです。同社は投資時期にあり、なおかつ大きな設備投資が必要なビジネスをやっているので異常なことではありません。

まとめ

日本動物高度医療センターの2021-3期の売上は28憶円、営業利益は4億円、営業利益率は14.2%でした。6年間の平均売上成長率は7%、営業利益成長率は16.8%でした。

同社のような総合診療可能な動物病院への参入障壁は高く、差別化ができていると評価しています。一方で、大規模な動物病院の数は年々増えており、今度の競争は激化していく可能性があります。同社は連携病院制によってより良い医療サービスを提供する体制を構築しており、なおかつ、1次診療施設との競争回避に成功しているため、動物病院の増加の影響を避けて成長していけるのではないかと思っています。連携病院制は同社・1次診療施設・飼い主の3者にとってメリットがある制度であり、これを強固なものにしていくことが同社の事業継続のために極めて重要です。

同社は2022年11月に大阪病院の開院を計画しており、これによって更に事業規模が拡大するはずです。しかし、近畿地方の1次診療施設数や連携病院数を見る限り東京病院開院ほどのインパクトはなく、これまでの6年間と比較すると成長はやや鈍化するのではないかと保守的に考えています。

統計データを見る限り、家計の動物病院への支出額は増えており、ペット保険の普及率も上昇しているため、現時点の事業環境は良いです。しかし、事業環境が悪化する要因はいくつもあるので投資をするのであれば同社の公表するKPIや統計データを注意深く見守っていく必要があります。加えて、同社は固定費が高いビジネスを営んでおり売上減少時の業績が急激に悪化するだけでなく、有利子負債が多く、業績悪化時にそれが重しになる可能性が高いため、猶更注意が必要です。


今回はここまでです。