事業内容
三和HDはシャッターやビル・マンション用のドアなどのビル商業施設や住宅の建材を扱うメーカです。創業時はシャッター製品のみを取り扱っていましたが、比較的早い段階で多品種化に乗り出し、現時点ではビル・工場・物流施設の開閉部および周辺の様々な建材を取り扱っています。また、買収によって1996年にアメリカ、2003年にヨーロッパに進出しており、日本だけではなくアメリカとヨーロッパでも存在感のあるメーカとなっています。おおよそですが日本とアメリカではNo1、ヨーロッパではNo2~3の開閉部建材メーカだと思ったらよいです。
同社の事業は「日本」「北米」「欧州」「アジア」の4つのセグメントに分かれています。
有価証券報告書より表を引用
売上・利益のセグメント構成比率をみると、国内事業が売上の半分、利益の三分の二程度を稼いでいます。三和はグローバルメーカですが、まだまだ国内が稼ぎ頭であり、海外事業をまだまだ伸ばしていく必要があります。
有価証券報告書よりグラフを作成
以下は三和HDの各種製品のマーケットポジションを大まかにまとめた資料です。
2022年 統合報告書 p64より引用
シャッター、セクショナルドア、ガレージドアなど高いシェアを持つ製品を多数保有していることがわかります。
競合他社
検索しても統計データなどが入手できなかったので、ここでは三和HDのIR資料を読んでわかったことを書いています。
シャッターやドアについて、日本では文化シャッター、東洋シャッターが競合します。国内のシャッター業界はかなり寡占化が進んでおり、競合は少ないです。アメリカ、アジアではよくわかりません。日本とアメリカでは同社がNo1のポジションにいるようです。欧州ではドイツのハーマン社が大きなシェアを持っているようで、三和HDは2、3番手のポジションにいます。また、スウェーデンの大手企業であるアッサアブロイ社も競合となっているようです。
間仕切りや自動ドア、アルミ・ステンレスフロントなどのその他製品について、国内ではリクシル、YKKなどを始めとして多数の競合がいるようです。海外はよくわかりません。
強み
同社の国内事業の強みは
- 全国に生産拠点を有しており、全国に多種多様な製品を供給可能
- 多品種化戦略によって、多数の高シェア製品を有しており、工場の稼働率を高めることが出来る
- 開閉部の建材を中心に多種多様な製品を取り揃えており、顧客への提案力が高い(多くの選択肢を提案できる他にバンドリングも可能)
- 全国に3000名を超える施工技術者を配置し、強固な施工ネットワークを構築しており、柔軟かつ専門性の高い工事・メンテナンスを実現
があげられます。
同社の主な製品であるシャッターは重量物であり、輸送はコストの面で不利となるため、生産拠点は需要がある地域にそれぞれ作られることになります。そのため、生産への投資は比較的大きくなり、設備の稼働率はとても重要です(製造業なら普通のことだと思いますが)。おそらく同社が進めている多品種化戦略は成長にとってだけでなく、設備の稼働率を改善させることにも一役買っています。
- 買収によって既存の生産設備を活用可能な新たな製品のシェアを獲得する
- 生産ラインの組み換えや集約化、再配置などによって生産力のみならず、設備稼働率が改善
- 製品ラインナップが充実し、顧客への訴求力が高まり、さらに売上が増える・設備稼働率が改善
同社は1984年から買収によって製品の多品種化を進めており、そこら辺のノウハウの蓄積が進んでいると思われます。
また、同社の契約先であるゼネコンや工務店にとって、施工品質だけでなく労働力の確保や施工管理などをメーカが責任をもって遂行してくれることは魅力的であり、同社が選ばれる理由の一つとなっています。加えて、製品のアフターメンテナンスは利益を上げやすく、同社の施工ネットワークは事業にとって重要です。
このように同社は主に国内で大きな強みを持っています。一方で海外は国内と比較して強みの構築がやや弱く、これから強化していく段階だと思ったらよいです。特に欧州とアジア。
その他
シャッターやドアの主な原料は鋼材であり、鋼材価格がコストに与える影響が大きいです。しかし、IR資料を読む限り価格転嫁できており、業績への悪影響を抑えることが出来ているようです。
業績
売上と営業利益率、営業利益と純利益の推移です。
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売上と利益が16年間で大きく増えています。営業利益率は7%~8%あり、製造業としてはそこそこ高いです。また、業績が景気動向で大きく左右されることがわかります。
セグメント別の売上と利益、および利益率です。
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国内の売上はそれほど増えていませんが、海外の売上は比較的伸びているように見えます。一方で、利益は特に国内が大きく増加しており、海外も売上増加に伴って利益も増えています。利益率を見ると国内の利益率が高い一方で、海外はそれほどでもありません。国内市場は成熟しており、規模の面での成長は段々と難しくなっているみたいですね。海外での売上成長と利益率の改善が今後の課題でしょうか。
国内は2016年にシャッターの定期点検が義務化されたことからメンテナンス関連の売上が増えています。製造よりもメンテナンスサービスのほうが利益率がよく、そのため、国内の利益率が大きく改善しています。海外とくに北米ではメーカは販売後のメンテナンスに携わることが少なく、そこはディストリビューターと呼ばれる販売代理店が担当しているようで、販売後の需要と取り込めていないようです。三和HDも何もしていないわけではなく、売却を希望するディストリビューターを買収するなど川下進出を進めていますが、まだまだこれからということですね。
設備
同社は全世界に生産拠点を有しています。中国や東南アジアはまだ手薄ですが、売上も利益他と比べると少ないのでこんなものだと思います。
2022年 統合報告書 p62,p63より引用
投資
設備投資と買収への支出額です。
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この16年間の設備投資が約1200億円、買収が約600億円となっています。
セグメント別の設備投資。
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金額的には国内外ともにバランスよく設備投資を行っています。有報によると「各工場の設備の更新、生産設備、金型等の取得及び情報技術関連の投資等を実施」しているとのことです。
IR資料からセグメント別に主な設備増強投資、買収などををまとめました。
国内については
- 2016年のシャッターの定期点検義務化の需要を取り込むための投資
- シャッター以外の建材の生産増強
が主な増強投資でした。
また、鈴木シャッターの買収が大きな買収でした。
有価証券報告書、その他IR報告書、買収に関わるインターネット記事より表を作成
北米については、IR資料からは大きな設備増強投資に関する情報は読み取れませんでした(実際にはやっているとはおもうけど)。また、新ERPシステムの導入にはそこそこ苦戦しているような記載が多々ありました。生産プロセスなどの最適化にはまだ課題があるのかもしれません。
買収については
- 他社のドア事業の買収に伴うシェアの拡大
- サービス事業を行う会社やディストリビューター買収による川下進出
が主な買収でした。
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2015年 統合報告書 p14より引用
欧州については
- 生産に強みのあるアルファ社の工場、NFドア社(ポーランド)の工場への投資
- ドッグレベラーや産業ドアの生産増強
が主な投資でした。
買収については
- 既存地域であるドイツ、フランス、イタリア、オランダの事業強化
- 手薄地域であるイギリス、北欧への進出
のためのものが主な買収でした。
また、生産技術に強みをもつアルファ社の買収を足掛かりに欧州での生産能力が大きく向上しました。
有価証券報告書、その他IR報告書、買収に関わるインターネット記事より表を作成
アジアについてはIR資料を読む限り、生産体制の構築や再編2020-3期までは主な投資であったようです。2022-3期決算説明会資料によると
- 中国常熟工場の稼働によるヒンジドア事業のさらなる拡大
- 主要工場の生産設備刷新(ベトナム、台湾、インドネシア)
など、生産設備への投資を加速させる計画です。
買収については他セグメントで買収した会社のアジア事業を統合するという形が多かったです。アジア内の会社買収について今のところ情報がありませんでした。
アジアへの投資はまだまだこれからのようです。
フリーキャッシュフローの算出
フリーキャッシュフローの推移です。
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フリーキャッシュフローは基本的にはプラスです。税引き前営業利益(NOPAT)は増加しており、稼ぐ力は増えているようですが投資も増えており、フリーキャッシュフローはあまり変わらずといったところです。
投下資本利益率の算出
投下資本利益率(以降ROICと記載)の推移です。投下資本として非事業資産も含んでいます。したがって、ここでのROICは会社の価値創造に関するものだと思ってください。
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ROICは上昇傾向にあります。2016-3期以降のROICは8%を超えており、高いです。ROICは大きく営業利益率と投下資本回転数に分解できるため、双方を確認します。
営業利益率と投下資本回転数の推移です。
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ROICの上昇は営業利益率の改善によって、かなりの部分が説明できるとわかりました。営業利益率は国内事業の利益率改善にともなって上昇しており、シャッター定期点検義務化に伴うメンテナンス需要を取り込めたのが大きかったといえます。
以下は投下資本の推移です。
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2009-3期に無形資産が大きく減少しているのがわかります。これはのれんの減少によるもので、有報によると「在外子会社の会計処理方法の変更によるもの」だと説明されています。のれんと利益剰余金が大きく減少しており、実質的にのれんの減損処理であったと思っています。こののれんは1996年に買収したアメリカのオーバーヘッドドア社(買収金額517億円)、2003年に買収したノボフェルム社(217億円)が主なものだと思われます。また、2003年にも100億円の営業権を償却しています。
このように同社は高値で買収を行った結果、大きな減損・償却を行った実績があり、今後の買収についても注意が必要です。
あとは、大きな減損を行った会社の成績をROICでみてよいのかという疑問もあります。ここら辺は今後の課題としたいです。
まとめ
三和HDは日本・北米・欧州で存在感のある動く建材のグローバルメーカです。しかし、利益の大半は日本国内によるものであり、事業の強みの構築も海外は国内と比べると遅れている印象があります。とはいえ、海外売上は50%程度あり、海外進出はかなり進捗しているといえます。これから手薄な中国や東南アジアを強化していくようであり、北米と欧州の川下進出など成長の余地はまだまだ残されています。
一方で国内市場はすでに成熟しており、今後の国内での成長は難しいように思えます。また、同社は買収を活用し成長を目指していますが、高値で買収した過去があり、今後の買収が適正なものかは注意してみていく必要があります。
今回はここまでです。