事業内容
概要
リスクモンスターは与信管理サービスを中心に、グループウェア、eラーニングといったサービスをクラウド経由で提供しています。同社の事業セグメントおよび内容は以下の表の通りです。
セグメント | 内容 |
---|---|
与信管理サービス | 企業信用情報を分析し、同社独自の信用力格付け情報・与信限度額をASP・クラウドサービスによって提供している。また、顧客の取引先の信用情報が悪化した場合に自動で通知するアラーム通知機能、企業信用情報から優良企業を選別しマーケティングリストを作成する営業支援サービスをといったサービス、さらに、顧客の取引先全体のリスクを定量化しマネジメントするポートフォリオサービス、顧客の既存顧客・商圏を分析し営業支援を行うマーケティングサービス、債権の回収が不安な取引先を1社単位・1契約単位で保証かけることができる金融サービスといった付加価値の高いサービスも提供している |
ビジネスポータルサイト | スケジュールや会議室の管理などの業務効率を図るためのサービスを提供するビジネスポータルサイト「J-MOTTO」を運営している。ASP版勤怠管理システム、給与データベースをWEB上で一括管理できるサービスも提供している |
教育関連 | 定額制の社員研修サービス「サイバックスUniv.」、eラーニングサービス及び集合研修サービス等を提供している |
BPOサービス | 顧客企業内にノウハウが少ない分野や付帯的な業務を請け負っている。マーケティング業務の効率化およびデジタルデータ化ソリューションを提供している |
その他 | 中国において与信管理及びグループウェアサービス等を提供している |
有価証券報告書より表を作成
事業セグメントごとの売上と利益の比率を以下に示します。
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売上・利益の半分程度を「与信管理サービス」が稼いでいます。また、「ビジネスポータルサイト」や「教育関連」も無視できないほど売上と利益が大きいです。いずれも会員制のストック型のビジネスであり、売上が安定しやすいという特徴があります。
与信管理サービス
同社は以下の流れで顧客に与信管理サービスを提供しています。
- 東京商工リサーチなどの企業信用情報調査会社から企業情報を購入する
- 顧客にとって分かりやすい、もしくは、扱いやすいように企業情報を加工する
- 企業情報を加工して作成した「リスクモンスター独自の信用情報」をクラウド経由で顧客に販売する
- 顧客が望むなら取引先のポートフォリオマネジメント、債権の保証、安全な営業先のリストアップといったより付加価値が高いサービスも提供する
このサービスは顧客に以下のメリットを提供します。
- 与信管理のノウハウがなくとも与信管理業務を行うことができる
- 少ない人員で与信管理を行うことが出来るようになりコストを削減できる
同社の与信管理サービスは比較的体力のない中小企業にとってメリットが大きいサービスであるといえます。また、大企業であっても人件費高騰などの事情から本業と離れた業務を外部委託する動機が高まっているといえるため今後このサービスの需要は拡大していくのではないかと考えています。ただし、与信管理業務のプロセスは重要であるがゆえに簡単に切り替わっていくようなことはなく時間がかかるでしょう。
このサービスの競合には
- 帝国データバンクや東京商工リサーチといった企業信用情報調査会社
- リスクモンスターと同様に顧客に代わって与信管理ノウハウを提供する会社
が考えられます。
まず、リスクモンスターの与信管理サービスはノウハウを顧客に提供するという点において明確に企業信用情報調査会社と差別化されています。また、帝国データバンクや東京商工リサーチといった企業信用情報調査会社が与信管理サービス事業に本格参入する可能性は低いと考えています。なぜなら、彼らのビジネスは非常に多くの手間暇をかけて集めた企業情報を高い価格をつけて販売することで成り立っており、顧客に経済的合理性を提供する必要から比較的安価に情報・ノウハウを販売する与信管理サービスとは相性が悪いからです。したがって、企業信用情報調査会社はリスクモンスターの直接の競合ではないと考えられます。
次に、リスクモンスターと同様に与信管理サービスを提供する会社については有報に以下のような記載があります。
当社グループは、主に、インターネットを利用して格付付与及び与信限度額等を提供する与信管理サービス事業を行っております。同様のサービスを行う企業は数社存在いたしますが、現時点は当社グループの事業領域において先行者メリットを十分に享受し優位性を確保していると認識しております。しかし、新規参入者は増加すると予想されるため、競合他社の出現による会員企業数の減少及び競争激化等による収益性悪化により、当社グループの業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。
第21期有価証券報告書 p14より引用
上記からこういった会社は明らかに同社の競合となります。サービスをどのように差別化しているのか、先行者であることがどのような優位性もたらしているかはよくわからず、同社の与信管理サービスが競争優位性を持つのか否かは不明です。もちろん、先行者として経験を積んでいるので顧客ニーズをより深堀できているとか、知名度があるという優位性はあるのかもしれませんが。
ビジネスポータルサイト
本事業ではグループウェアを顧客に提供しています。グループウェアというのは勤怠管理や、社員間コミュニケーション、会議室予約、タスク管理といった業務を効率化するためのソフトウェアの複合体のことです。同社はネオジャパンからライセンス提供を受けてJ-MOTTOというグループウェアを開発しています。
グループウェアを開発している競合他社は多く、J-MOTTOが機能的に優れている点は見当たりません。価格は他のグループウェアと比べると安いです。ただ、オフィスの価格を考えるとマイクロソフトと比べて特別安いかといわれると難しいですね。
J-MOTTOが提供するサービス内容については以下が詳しいです。
競合他社は日本マイクロソフト、グーグル、日本IBM、サイボウズ、ネオジャパンなどで、情報がやや古いですがシェアなどについては以下のページが詳しいです。
J-MOTTOは競合他社と比較して優位性があるとは言い難いです。また、近年競争が激化しているようです。以下は競合に関する有報の記載です。
当社グループはビジネスポータルサイト事業において、グループウェアサービス「J-MOTTO」を提供しておりますが、近年はグループウェアについて競合他社が増加しており、グループウェアの商品価値は低下傾向にあります。これに対して当社グループは、サービスの付加価値を高めるため、独自の機能を搭載するカスタマイズを積極的に行い、コールセンターや操作説明会など、お客様の利用フォロー活動に注力し差別化を図っております。
第21期有価証券報告書 p14より引用
競争激化しており、J-MOTTOの商品価値が低下していると明確に記載があります。あえて有報に記載しており、成長するのは難しい環境だと投資家に向けて伝えているのだと理解しています。
ただし、与信管理サービスといった他事業の既存顧客、特に中小企業などの体力のない顧客にとっては高額なサービスを比較検討して導入するよりはすでに付き合いのある同社から安価にサービスを導入する方が簡単で安くメリットがあるため、他事業の既存顧客に対してサービスを提供するというのは良い方法だと思います。同社の場合、競争優位性を考える際は既存顧客に対するものと新規顧客に対するもので分けて考えなければならないです。
また、本事業にかかわる同社の従業員数は2021-3期時点で14人でしかなく(全体は207人)、その人数で売上の14%、利益の21%を稼ぎ出しており、十分な貢献をしていると評価しています。
教育関連
本事業では定額制の社員研修サービス、eラーニングサービス及び集合研修サービス等を提供しています。教育関連事業は2006年に与信管理サービスの顧客向けに与信管理に関するeラーニングサービスを提供したところから始まっています。以下はその時のプレスリリースです。
教育関連事業もビジネスポータルサイトと同じで既存顧客のニーズに対して立ち上げられた事業です。同社の教育関連事業の競争優位性についてですが、既存顧客、特に中小企業に対しては簡単で安価だといったメリットを提供することが出来るでしょう。囲い込みのような効果があり、既存顧客・中小企業という限定的な範囲で優位性があると考えています。ただし、競争優位性があるといえるほど強力なものだとは思っていません。新規顧客に対しては競争優位性はないと保守的に評価しています。判断できるだけの情報を入手出来ていないので。
また、既存事業強化の手段として上手くいっていると思っています。既存サービスに関連する教育サービスによって顧客の満足度が向上する、顧客が複数のサービスを利用することで依存度が高まりスイッチングコストが上昇する、営業効率がよいためサービス価格を下げる余地が生まれるなど。
さらに、eラーニングサービスの市場規模は年々拡大しており(2020年度の国内eラーニング市場規模、前年度比22.4%増 | 教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」)、事業を拡大する余地はあると考えています。具体的には既存顧客のニーズを深堀することで事業が拡大する余地があり、さらに新規顧客を獲得し、与信管理サービスやビジネスポータルサイトといった他の事業の顧客獲得につなげることもできます。
BPOサービス
顧客にノウハウが少ない分野や付帯的な業務を請け負うのがBPOサービスです。本事業において顧客のニーズを吸収し、サービス化することで新規事業を開拓しており、利益の面では他の事業に劣後していますが、非常に重要なセグメントとなっています。
財務状況
売上と利益
以下のグラフは売上および営業利益率の推移です。
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以下のグラフは営業利益と純利益の推移です。
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売上と利益は成長しています。2021-3期の営業利益率は18.4%で高いです。2008-3期に純利益がマイナスになっていますが、有価証券の減損によるものであり本業とは無関係です。
セグメント別の売上と利益
以下のグラフはセグメント別の売上構成および売上増加量です。
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買収によって2008-3期にビジネスポータルサイト事業が加わり、2018-3期に教育関連事業がその他事業から分離しています。また、2017-3期以降に与信管理サービスの売上が大きく増加しています。
以下のグラフはセグメント別の利益構成および利益増加量です。セグメントの利益についての情報は2011-3期以降しかありませんでした。
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2021-3期のBPOサービスは大型スポット契約によって利益が大きく増加しています。これは一時的なものです。利益の大半を与信管理サービスとビジネスポータルサイトが稼いでいることがわかります。
また、2017-3期以降、与信管理サービスの利益が大きく増加しています。ビジネスポータルサイトや教育関連も与信管理サービスには劣りますが利益が増加しています。
以下のグラフは与信管理サービスの売上と会員数の推移です。
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以下のグラフは与信管理サービスの1会員当たりの売上の推移です。
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会員数が増加しており、それに伴って売上も増えています。
2008-3期から2010-3期にかけて会員数が減少していますが、これは景気の悪化によるものです。しかし、景気が悪化すると会員数は減少するが、1会員当たりの利用額が増えるため全体としての売上が増加するため不況耐性は高いといえます。売上と会員数は順調に増えており、事業は成長していると評価できます。
以下のグラフはビジネスポータルサイトの売上と会員数の推移です。
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以下のグラフはビジネスポータルサイトの1会員当たりの売上の推移です。
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会員数が減少している一方で、売上は横ばいです。これは1会員当たりの売上が増えているためです。J-MOTTOを利用している会社は減っているが、深堀によって1会員当たりのユーザ数が増加し、売上を維持しているということです。
以下のグラフは教育関連の売上と会員数の推移です。
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以下のグラフは教育関連の1会員当たりの売上の推移です。
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売上と会員数を成長させています。単価も他の事業と比較して低いので、まだ深堀の余地はあると思いますが、わたしはかなり保守的にみています。
資産
以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。
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総資産は増加しています。また、自己資本比率は80%を超えており、非常に高いです。
以下のグラフは資産の内訳推移です。
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総資産の増加要因は
- 現金及び有価証券の増加
- 有形固定資産の増加(2015-3期)
であることがわかります。
有形固定資産の増加分は本社ビルの取得によるものです。おおよそ10億円をかけて土地と建物(改修費含む)を取得しています。
本社ビル取得の目的は以下の通りです。
■ 固定資産(土地及び建物)の取得について
業容拡大への対応、グループ機能の集約による効率的な業務運営の実現、賃借料など固定費の削減を図るため、2015年5月の本社移転を目的とし、土地及び建物を取得、改修工事を実施いたしました。
移転に伴う諸費用が発生すること、定率法による設備の償却額が初年度は大きくなるため、本社ビル取得による利益貢献は、2015年度下期以降に寄与する見込みです。
2015年3月期 決算説明会資料より引用
また、総資産の半分以上が現金および有価証券であり、キャッシュが余っている状態であることがわかります。
以下のグラフは負債の内訳推移です。
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総資産の増加分はほとんどが自己資本の増加によって賄われてます。つまり、利益が積みあがっているということです。
また、2015-3期の本社ビル取得のための資本の一部は借入によって調達されています。
以下のグラフは自己資本の内訳推移です。
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自己資本の増加は、利益剰余金の増加によるものだとわかります。しかも、資本金・資本剰余金が自己株式の消却によって減少しています。利益の積み上げ方としては理想的な形です。
ただ、これだけのキャッシュを余らせてほしくないのですが。
キャッシュフロー
営業CF
以下のグラフは営業CFの内訳推移です。
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営業CFは成長しています。
投資CF
以下のグラフは投資CFの内訳推移です。
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投資CFのほとんどが設備投資によるものです。
以下のグラフは設備投資の内訳推移です。
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2015-3期を除くと、設備投資の大半は無形固定資産への投資であることがわかります。
これはソフトウェアへの投資であり、毎年2~3億円程度の投資をしています。
ソフトウェアへの投資の目的は
- サービス基幹システムの増強
- システムサーバー増強
です。
2015-3期の有形固定資産への投資は、本社ビル取得のためのものです。賃借料削減のための投資です。
財務CF
以下のグラフは財務CFの内訳推移です。
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2014-3期までほとんど借入がありませんでしたが、2015-3期の本社ビル取得のため6億円の借入を行っています。
また、2015-3期以降、株主還元に積極的で支出が増えています。
以下のグラフは財務CF中の株主関連CFをまとめたものです。
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特にいうことはありません。
全体
以下のグラフは各種キャッシュフロー、現金同等物、有利子負債の推移です。
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営業CFは常にプラスで、フリーCFも原則プラスになっています。本業によってお金を生み出せており、原則的にその範囲で設備投資等を行っています。手堅いお金の使い方をしてます。有利子負債と比べて現金同等物が極めて多いです。2015-3期に本社ビル取得のために現金同等物が減少し、有利子負債が増えていますが、それ以降は有利子負債が着実に減っており、返済は順調です。
リスクモンスターのCFは極めて健全です。しかも、もうかっている会社であるといえます。
まとめ
リスクモンスターの2021-3期の売上は36憶円、営業利益は7億円、営業利益率は18.4%でした。14年間の平均売上成長率は7%、営業利益成長率は8.5%でした。同社の事業はストックビジネスであり収益は安定しています。
与信管理サービスやビジネスポータルサイト、教育関連事業が競争優位性を有しているか否かはわかりませんでした。わたしは保守的に競争優位性はないと評価しています。同社は既存顧客のニーズを深堀し、新たなサービスを立ち上げ、収益を増やしてきました。例えばビジネスポータルサイトや教育関連事業がそうです。この手法は既存事業強化のために役立っています。
- 既存サービスに関連する教育サービスによって顧客の満足度が向上する
- 顧客が複数のサービスを利用することで依存度が高まりスイッチングコストが上昇する
- 既存顧客に対する営業は比較的効率がよく、すでに別のサービスで収益を得ており価格を下げる余地が生まれる
財務も健全であり、総じて同社の事業は優れていると評価しています。
同社の事業の中心は与信管理サービスであり、この事業によって過半の売上・利益を稼いでいます。与信管理サービスの会員数は着実に増えており、緩やかにではありますが成長しています。与信管理は重要な業務であるがゆえにスイッチングコストが高く急激な成長は望めませんが、人件費高騰などの要因によって本業とは無関係な業務が外部委託される流れはしばらく続くと考えており、与信管理サービスの成長余地はあると考えています。
教育関連事業が近年急速に会員数を伸ばしていますが、与信管理サービス並みの規模に成長できるかはわかりません。わたしは保守的に考えており、あまり期待しないようにしています。
今回はここまでです。