事業内容
事業概要
朝日印刷は医薬品および化粧品向けの包材の製造・販売を主な事業として営んでいます。
同社の事業は「印刷包材」「包装システム販売」「人材派遣」の3つに分類されており、それぞれ以下のようなサービスを顧客に提供しています。
区分 | 内容 |
---|---|
印刷包材 | 主に医薬品・化粧品向けの包材(箱、瓶に貼るラベル、説明書)を製造・販売している。同社の推計によると2018年3月期の医薬品向けのシェアが40.3%でNo1、化粧品向けのシェアが24.2%でNo1と高いシェアを獲得している。 |
包装システム販売 | 包装用機械メーカとタイアップし、同社の包材とセットにして顧客に包装用システムを販売している。 |
人材派遣 | 同社のグループ内および地域企業へ人材の派遣を行っている。 |
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同社については以下のリンクが詳しいので、一読されることをお勧めします。残念ながら2019年3月期のものはありませんでした。
重要な点をかいつまんで記載すると
- 医薬品・化粧品の包材分野で高いシェアを有している。
- 医薬品は小ロットで品質の要求が厳しいため今のところ大手も力を入れて参入していない。
- 顧客基盤が厚い。国内製薬メーカーの売上上位100社中93社、化粧品メーカーの売上上位30社中21社と直接の取引がある。
- 医薬品市場および化粧品市場は拡大基調である。
といったかんじでしょうか。
以下は2019年3月期のセグメント別の売上・粗利益構成です。
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売上・粗利益ともに「印刷包材」事業が全体の9割以上を占めていることがわかります。
また、過去のデータになってしまいますが、2018-3期は「印刷包材」事業の売上のうち
- 医薬品向けが69%
- 化粧品向けが18%
- 健康食品・一般市場向けが11%
- 製版・デザインが3%
でした。
業績推移
売上と利益
以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。
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売上は一貫して増加しています。一方で営業利益率は2011-3期以降低下しています。特に2019-3期に営業利益率が大きく(1.7%)低下し、減益となってしまっています。
営業利益・純利益は売上に比べると緩やかではありますが増加傾向にあります。
以下のグラフは2011-3期以降の売上原価率及び各種販管費率の増減です。
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まず、2019-3期に営業利益率が大幅に低下した理由についてです。これは売上原価の影響が最も大きいことがわかります。前年度と比較して売上原価(減価償却費を除く)が1.22%、売上原価に含まれる減価償却費が0.44%増加しています。次いで荷造運送費が0.1%増加しています。2019-3期の営業利益率の低下は1.7%であり、この3つでほぼ説明できます。したがって、2019-3期の営業利益率の低下は
- 売上原価(減価償却費を除く)が1.22%
- 売上原価に含まれる減価償却費が0.44%
- 荷造運送費が0.1%
のように費用が増加したためです。原材料費や物流費の高騰、増産体制構築による減価償却費などの固定費の増加によって利益率が低下し、結果として減収になってしまったと考えられます。
次に2011-3期以降の営業利益率の低下は荷造運送費および生産設備に対する投資費用(売上原価に含まれる減価償却費)の増加が原因です。
- 荷造運送費は1.18%
- 売上原価に含まれる減価償却費は1.08%
のように2011-3期以降、ほぼ右肩上がりで費用が増加しています。この2つで2.26%の営業利益の低下要因となっています。
以下のグラフはROAとROEの推移です。
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ROE・ROAともに低下傾向にあります。2019-3期のROEは約5.7%でやや低いです。
財務レバレッジは横ばいです。
セグメント別の売上推移
以下は品目別の売上構成、売上増加量、売上成長率の推移です。同社は「医薬情報企画」事業から2009-3期に撤退しており、ここでは本事業については触れません。
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売上の増加が最も大きいのは「印刷包材」事業で、次いで「包装システム販売」事業です。「包装システム販売」事業は売上増加額は小さいですが、成長率は「印刷包材」事業と比較して高くなっています(安定していませんが)。ただし、「包装システム販売」事業の売上は2019-3期時点で全体の8.3%を占めているに過ぎません。一方、売上全体の90.7%を占める「印刷包材」事業の売上は年間約5%程度の成長率となっており、緩やかに成長しています。
資産
以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。
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総資産額は増加傾向にあります。自己資本比率は横ばいです。
2019-3期の自己資本比率は52%でした。
以下のグラフは資産の内訳推移です。
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有形固定資産が大きく増加しています。これは主に生産設備が増えたためです。
有価証券はほぼすべてが関係強化のために保有している上場株式です(換金性があるかといわれると判断が難しいかな)。
以下のグラフは負債の内訳推移です。
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自己資本が増加している一方で、有利子負債も増加しています。2014-3期以降は自己資本だけではなく有利子負債も活用して生産設備に投資していると考えられます。
以下のグラフは自己資本の内訳推移です。
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自己資本の増加は利益剰余金の増加によるものであり健全です。
キャッシュフロー
営業CF
以下のグラフは営業CFの推移です。
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営業CFは緩やかに成長しています。
投資CF
以下のグラフは投資CFの推移です。
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投資の大半が固定資産の取得・売却であり、これは主に生産設備への投資です。
以下のグラフは主な設備の帳簿価格の推移です。
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2015-3期までは富山県の製造・物流拠点等の帳簿価格が増加していましたが、2016-3期以降は関西の製造拠点の帳簿価格が増加しています。つまり、2015-3期までは富山県の生産設備に重点的に投資を行っていたが、それ以降は関西の生産設備に重点的に投資を行っているということです。また、帳簿価格には表れていませんが、営業所も2006-3期は9か所でしたが2019-3期には18か所になっており、13年間で2倍に増えています。
主な製造拠点の新設は以下の通りです。
- 2007-3 富山県にクリエイティブセンター(販売・企画デザイン設備)を新設
- 2008-3 富山東工場を新設
- 2010-3 富山南工場を新設
- 2013-3 富山第三工場を新設
- 2016-3 京都クリエイティブパーク(印刷包材の製造設備)を新設
- 2018-3 富山SCMセンター(包材製品の荷捌所)を新設
- 2020-3 京都クリエイティブパークの製造能力増強のために60億円を投資(予定)
財務CF
以下のグラフは財務CFの推移です。
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以下のグラフは財務CF中の株主関連収支の内訳です。
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特に気になる点はありません。
全体
以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。
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営業CFは常にプラスで安定しており、また、緩やかではあるが営業CFは成長しています。同社の事業は収益の維持および成長のために生産設備に大きな投資が必要であり、ネットキャッシュは常にマイナスです。総合すると本業の成長によってお金を稼ぐ力は強くなっているが、事業の成長・維持のために多額の投資が必要であり、そこまで儲かっているわけでもないといった感じでしょうか。
まとめ
朝日印刷は緩やかではありますが着実に売上と利益を成長させています。
2006-3~2019-3期については
- 売上が227億円から393億円となり、166億円増加、+73%、年平均4~5%成長
- 営業利益が15.4億円から18.7憶円となり3.3憶円増加、 +21%、年平均1~2%成長
となっています。
成長速度は物足りないですが、同社が医薬品・化粧品向けの包材というニッチな分野に特化していること、事業の維持・成長のために多量の資本投下が必要なことを考えると妥当なのかなと思っています。
また、近年の営業利益率は低下傾向にあり、2011-3期は8.1%ありましたが2019-3期には4.8%まで低下しています。
2011-3期以降に営業利益が低下した要因としては以下が挙げられます。
- 荷造運送費が1.18%増加
- 売上原価に含まれる減価償却費が1.08%増加
この2つで2011-3期以降の営業利益率低下3.3%のうち2.26%が説明できます。近年の運送費の高騰や生産設備への積極的な投資によって費用が増加したために利益率が低下したということです。
同社の製造拠点は富山県に偏っていましたが、近年は2016-3期に京都クリエイティブパーク(印刷包材の製造設備)を新設し、関西の製造拠点への投資を増やしています。「関西方面の売上が増えたため、関西方面へ富山県から製品を運ぶためのコストが相当かかっていた(地域別の売上がわからないので正しいかわかりませんが)」「被災リスク軽減のために拠点を分散したい」といった思惑があったのではないかと考えています。
日本は今後高齢者の人口が増えていくため、それに伴って医薬品の消費も増えていくでしょう。同社は医薬品向けの包材で高いシェアを獲得しており、同社の売上も増加していくことが期待できます。
ただ、同社は増産体制構築のため多大な投資をしており、売上が増加したとしても利益に結び付くには時間がかかるのと思っています。減価償却費負担や労務費の増加を考えると投資に見合った売上の増加・工場の稼働率・オペレーションの効率化などの利益を出すための条件を満たすためには時間がかかるはず。
したがって朝日印刷の今後の見どころは
- 積極的な投資が報われて利益に反映されるのはいつ頃なのか
- 売上に占める荷造運送費がこれからも増えていくのか
あたりだと考えています。
今回はここまでです。