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殺虫剤メーカについて調べてみた アース製薬 事業内容と業績推移

事業内容

概要

アース製薬の事業セグメントは「家庭用品」「総合環境衛生」の2つに分類されます。

「家庭用品」事業では虫ケア用品や口腔衛生用品・入浴剤をはじめとする日用品の製造販売を行っています。

「総合環境衛生」事業では、食品・医薬品関連工場の総合環境衛生管理業務及び環境衛生に関するコンサルティング、病院、レストラン、オフィスビル等幅広い分野で防虫・防鼠、清掃、消毒の環境衛生管理のサービスを行っています。


以下のグラフは売上および利益の構成です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


売上の大半を「家庭用品」事業が占めており、「総合環境衛生」事業の売上は12%と少ないです。しかし、「総合環境衛生」事業は利益の24%を稼いでおり、売上は少ないですが利益の面からは無視できません。


ちなみに、事業の内容とは関係がありませんが海外での売上がどの程度あるかについても見てみましょう。以下のグラフは地域ごとの売上比率です。

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決算説明会資料よりグラフを作成

海外の売上は全体の5%程度であり、アース製薬の売上のほとんどは国内のものになっています。

家庭用品事業

取り扱い製品および売上構成

以下の表は「家庭用品」事業で取り扱っている製品の一覧です。

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有価証券報告書より表を引用


アース製薬といえば殺虫剤のイメージが強いですが、多種多様な製品を取り扱っているのがわかります。


以下のグラフは「家庭用品」事業の売上の構成です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


売上の面で見ても、殺虫剤・口腔衛生用品・入浴剤・その他日用品をバランスよく販売していることがわかります。


品目ごとの市場規模およびシェア

以下の表は品目ごとの市場規模およびアース製薬のシェアです(2015年の値)。
防虫剤以外のその他日用品、ペット用品・その他製商品部門に関してのデータは入手できませんでした。

品目 市場規模 アース製薬のシェア
家庭用殺虫剤 1060億円 56.9%
家庭用園芸品 450億円 5.3%
口腔衛生用品 2050億円 17.7%
入浴剤 490億円 49.3%
防虫剤 240億円 32.3%

アース製薬 Investor's Guideより表を作成

  • 注意
    • 市場規模およびシェアはアース製薬による調査結果の値を掲載している
    • 家庭用園芸品の市場規模およびシェアはアース製薬が参入しているカテゴリーの合算値である

  
  

以下のグラフは品目ごとの市場規模およびアース製薬のシェア推移です。

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アース製薬 Investor's Guideよりグラフを作成

  • 注意
    • 市場規模およびシェアはアース製薬による調査結果の値を掲載している
    • 家庭用園芸品の市場規模およびシェアはアース製薬が参入しているカテゴリーの合算値である

  

家庭用殺虫剤、防虫剤、入浴剤のシェアが高いですが、これらの品目の市場規模は拡大しておらず(拡大していたとしてもアース製薬の業績に影響を及ぼせるほどではない)、成長ドライバーとしては期待できません。
家庭用園芸品のシェアは低いですが、2010年の参入以来着実にシェアを伸ばしています。今後に期待したいです。

口腔衛生用品の市場規模は2000億円程度と最も大きく、規模も拡大しており、魅力的な分野です。アース製薬は口腔衛生用品市場でそこそこのシェアを有しており、アース製薬にとっては稼ぎ頭の一つですが、同社のコアコンピタンスからは外れた分野です。また、この分野での売上の大半はアース製薬の製商品によるものではなく、グラクソ・スミスクラインの製商品によるものとなっています。


アース製薬が国内の家庭用殺虫剤市場で成長するのは難しいでしょう。市場規模も頭打ちで、すでに高いシェアを獲得してしまっているためです。一方で、口腔衛生用品は市場規模が拡大しており、シェア拡大の余地がありますが、同社のコアコンピタンスからは外れており、成長ドライバーとするには不適切です。したがって、同社の成長のためには、海外の家庭用殺虫剤市場に取り組むことが望ましいといえます。

総合環境衛生事業

取り扱いサービスおよび売上構成

「総合環境衛生」事業のサービスはトータルヘルスケア(THC)、ペストコントロール(PC)、ビルメンテナンス(BM)の3つに大別することができます。

それぞれのサービスの概要は以下の表の通りです。

サービス区分 サービス内容
THC 工場の生産ラインにおける異物混入・汚染などを防止するため、各企業の状況に応じた品質保証システムを設計・開発するとともに、それらの総合的なコンサルティングを行っており、主に食品関連工場向けにサービスを展開しています
PC 主に害虫駆除を行っています
BM 主にビル清掃などの管理業務を行っています

アース製薬 Investor's Guideより表を作成


以下のグラフは「総合環境衛生」事業の売上構成です。

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決算説明会資料よりグラフを作成

品目ごとの市場規模およびシェア

市場規模およびシェアがわかる資料・データはありませんでした。

業績推移

売上と利益

アース製薬全体の売上と利益

以下のグラフは売上と営業利益率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成

以下のグラフは営業利益と純利益の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


売上は増加していますが、営業利益率が低下しています。
営業利益と純利益も減少しています。

次は減価償却費やのれん償却費によって営業利益が減っている可能性を考慮して、償却前利益について確認します。



以下のグラフは償却前利益の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


以下のグラフは償却前利益を考慮した利益率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


営業利益の減少はのれん償却費の発生と減価償却費の増加で説明できます。また、償却前利益自体は増えています。
一方で、償却前利益率は緩やかな低下傾向にあります。

各事業の売上と利益

以下のグラフはアース製薬の売上構成推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


家庭用品事業と総合環境衛生事業の売上はともに増加しています。
また、アース製薬の売上増加の大部分が家庭用品事業の売上増加によるものであることがわかります。


以下のグラフは家庭用品事業と総合環境衛生事業の売上構成の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


家庭用品事業についてですが、すべての区分の売上が増加していることがわかります。
非常に素晴らしいことです。

総合環境衛生事業では、トータルヘルスケアの売上が増加していますが、ペストコントロールの売上が減少、ビルマネジメントの売上が横ばいになっています。
本事業の主力サービスはトータルヘルスケアなので、ペストコントロールやビルマネジメントの売上は増えていませんが、特に問題ないでしょう。
主力サービスの売上増加が事業全体の売上増加をけん引しており健全です。


次は各事業の利益を確認します。
(取り扱い商品、サービス毎の利益についてはわかりませんでした)


以下のグラフは各事業の償却前利益の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


家庭用品事業の利益は増加していますが、総合衛生環境事業の利益は横ばいです。



以下のグラフは家庭用品事業の償却前利益と利益率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


以下のグラフは総合環境衛生事業の償却前利益と利益率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成



家庭用品事業と総合環境衛生事業の利益率はともに低下しています。

売上と利益のまとめ

アース製薬の売上と利益について分かったことを以下にまとめました。
(特に断りがなければここでの増減値はすべて2006-12期と2017-12期の比較で記載している)

  • 売上について
    • 全体の売上は+113%
    • 家庭用品事業の売上は+134%、すべての区分の売上が増加している
    • 総合環境衛生事業の売上は61%、主要サービスのトータルヘルスケアが売上増加をけん引している
  • 利益について
    • 全体の償却前利益は+62%、ただし、営業利益は-8.7%(減っているというよりも変わっていないという印象)
    • 家庭用品事業の償却前利益は+58%
    • 総合環境衛生事業の償却前利益は+3.5%(微増というよりは変わっていないという印象)
  • 利益率について
    • 全体の償却前利益率は7.1%から5.4%に低下
    • 家庭用品事業の償却前利益率は7.4%から5%に低下
    • 総合環境衛生事業の償却前利益率は10.9%から7.0%に低下


売上と利益は増加しているが、利益率は低下しているといった感じになっています。

資産

以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成

総資産が大きく増加している一方で、自己資本比率は40%程度まで低下しています。
資産の増加および自己資本比率の低下は2011-12以降顕著です。


以下のグラフは資産と負債の内訳推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成

2011-12に資産無形固定資産が大きく増えています。
これはのれんが増加したためです。
同様に2011-12以降、有利子負債も増えています。

2011-12以降の買収を行った結果、のれんと有利子負債が増加しているということでしょう。
総資産の大幅な増加と自己資本比率の低下も、2011-12以降の買収によって説明ができそうです。



一方、自己資本は2013-12までは順調に増加していますが、それ以降はあまり増えていません。


以下のグラフは自己資本の内訳推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


利益剰余金が2011-12以降、ほとんど増えていないことがわかります。
アース製薬は純利益は減少しているものの、常にプラスであるため、通常なら利益剰余金は増えていそうなものです。
原因を確認しましょう。


以下のグラフは利益剰余金の増減要因を示しています。

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有価証券報告書よりグラフを作成


利益剰余金が増加していないのは、純利益のほとんど全てを配当しているからだとわかります。
自己資本がほとんど増えていないのは、現金配当のためだとわかりました。

キャッシュフロー

全体

以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


営業CFは常にプラスになっており、安定して本業で稼げていることがわかります。
フリーCFは投資額によってプラスになったりマイナスになったりしています。
特にここ数年は投資額が大きくフリーCFはマイナスになることが多いです。

また、ここ数年で有利子負債が大きく増加しており、投資のために借り入れを増やしていることがわかります。
有利子負債の額は2017-12期で222.5億円となっており、同期の営業CFが91.7億円であり、大体営業CFの2~3倍程度で、多くもなければ少なくもありません。

現金同等物の額は横ばいです。

営業CF

以下のグラフは営業CFの推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


営業CFは増加しています。


投資CF

以下のグラフは投資CFの推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


2012-12期、2014-12期、2017-12期に大きな買収をしていることがわかります。
以下は主な買収内容です。

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有価証券報告書およびIR情報より表を作成



設備投資はすべて有形固定資産への投資です。
設備投資額は2014-12期以降に大きく増加していますが、何に投資しているのでしょうか。


以下は設備投資の内訳です(工事ベース)。

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有価証券報告書よりグラフを作成


以下は重要設備の新設の内容です。

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有価証券報告書より表を作成


総合環境衛生事業の研究所建設(31億円)と、家庭用品事業のモンダミン生産設備(52億円)が主な設備投資のようです。

財務CF

以下のグラフは財務CFの推移です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


2012-12期以降、急激に借入を増やしていることがわかります。
また、株主関連(現金配当がほとんど)が年々増加しています。

以下は有利子負債の内訳です。ちなみに有利子負債のほとんどが借入金です。

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有価証券報告書よりグラフを作成

短期の借入が多くなっていますが、実績がなかったので長期でたくさん借りることができなかったのでしょう。

海外売上

以下のグラフは海外売上比率の推移です。

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有価証券報告書およびIR情報よりグラフを作成

海外売上比率は増えているものの、2017-12期で5%程度と低いです。


以下のグラフは海外売上の構成です。

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有価証券報告書およびIR情報よりグラフを作成


海外売上は2017-12期で90億円程度、そして、主にアジアで売上があるようです(その他がどこかは不明)。

海外売上はまだ少ないですが、着実に増えています。
ベトナムの会社を買収するなど、積極的に取り組んでいるようですし、今後に期待したいです。

まとめ

アース製薬は国内の家庭用殺虫剤、防虫剤、入浴剤、口腔衛生用品市場において高いシェアを保持しています。特に家庭用殺虫剤分野では並ぶものがない状況で、この分野では当面の間は安定した収益を期待できます。また、2007-12期前後の業績をみてわかるように、アース製薬の業績は景気変動に左右されにくいディフェンシブな特性を持っています。さらに、近年は売上と償却前利益が増加しています。

一方で、国内の殺虫剤、防虫剤、入浴剤の市場規模の増加はそれほど期待できず、成長のためには海外で事業を展開していきたいところです。しかし、アース製薬の海外売上は全体の5%程度しかなく、海外での事業展開はまだ進んでいません。この点、フマキラーは海外展開に成功しており、海外展開だけを見るなら、フマキラーのほうが優れています。国内ではフマキラーはアース製薬に太刀打ちできませんが・・・

家庭用殺虫剤、防虫剤、入浴剤、口腔衛生用品はだれもが日常的に使い、老若男女問わず必要とされるものです。人口減少の影響は受けるものの、安定した収益が期待できます。しかし、人口減少によって確実に国内市場は縮小していきます。近年、アース製薬は殺虫剤以外の分野での買収によって多角化を図っていますが、海外市場の事業展開が進まなければ衰退していくのは間違いありません。事業の成長、国内人口減少への対応のためにも、アース製薬にとって海外展開は重要であるといえます。


国内市場での売上を維持しながら、海外市場での事業展開をどのように進めていくのかが今後の見所です。
特にアジア圏の人口は今後増加していくことが分かっているので、海外売上は今後増えてくれるのでは?と期待しています。

今回はここまでです。