概要
2021年に新規上場した銘柄のうち、面白そうだなと思った銘柄を簡単に紹介します。投資するに優れた銘柄とは限らないためあしからず。
今回の銘柄はサイバートラストです。この会社は主に認証・セキュリティ、Linux/OSSの技術をもっており、それを使って顧客に製品・サービスを提供しています。同社はSBテクノロジー(4726 東証一部)が親会社で、兄弟会社であった旧サイバートラストとミラクルリナックスが合流して現サイバートラストとなっています。
事業内容
サイバートラストの事業は「認証・セキュリティ」「Linux/OSS」「IoT」の3つに分類されます。
認証・セキュリティ
同社は1997年に国内初の商用電子認証局を開局してから20年以上にわたって運営してきたという実績があり、セキュリティ・認証に関して相応のノウハウを有しています。また、電子認証局の国際的な監査規格も取得しています。
主に以下の3つのサービスを提供しています。
- パブリック証明書サービス
- SSL/TLS証明書を提供しており、アクセスしたwebサイトのサーバの身元が確かであることを証明する(SureSever)
- デバイス証明書管理サービス
- あらかじめシステム担当者が許可したPCやスマートフォンなどのデバイスだけを社内ネットワークにアクセスできるようにする
- 電子認証サービス
- 本人が実在し同一であることや電子文書が改ざんされていないこと、署名が真正に成立していることを証明する(iTrust)
これらのサービスで差別化を図るのは結構難しいはずなので、同社がセキュリティ・認証分野で大躍進するとか、短期間で事業規模が10倍になるとかっていうのは期待できないです。認証局や認証サービスは確かに信頼性が重要なんだろうけれど、一定の信頼さえあればサービスの内容に変わりはないので。他の事業者のものでも事足りるということ。
ただ、昨今の書類の電子化、脱ハンコ、リモートワークの推進などの社会的な要請にこたえる形で、同社のセキュリティ・認証サービスの利用は増えていくはずです。なので本事業の売上も今後しばらくは安定して増えていくはずです。
有報によると
- 国内のEV SSL/TLS証明書市場においては枚数シェアでNo.1
- デバイス認証市場ではほぼ独占している状態だと考えている
とのことなので、なかなか上手くやっているようです。
Linux/OSS
本事業ではOSS(オープンソースソフトウェア)をベースとして、製品やサービスを提供しています。
以下の製品やサービスを顧客に提供しています。
- サーバー向けLinuxOS「MIRACLE LINUX」
- 統合システム監視「MIRACLE ZBX」
- システムバックアップ「MIRACLE System Savior」
- LinuxOSを使用するユーザに対するサポートサービス
本事業の顧客メリットは
- 比較的安価に製品・サービスを利用可能(おそらく)
- 十分なサポートを受けることが可能
といったものだと思われます。
例えば、サーバー向けLinuxOS「MIRACLE LINUX」は同社の代表的な製品です。MIRACLE LINUXはRed Hat Enterprise Linux(以降RHEL)をベースに開発されており*1、RHELと互換性があり、顧客であるシステムメーカはRHELと同等の環境を長期サポートを受けながら利用することが可能です。そして恐らくRHELのライセンス料やサポート料金よりも安価なのだと思います*2。
また、一般にシステムメーカはMIRACLE LINUXではなく、CentOS*3を利用することもできます。CentOSは無償で利用可能ですが、OSの設定に限らず何か問題があれば自前で対応する必要があります。さらに、CentOSのサポート期間はシステムメーカの製品保守期間よりも短いことが多く*4、なおかつ、CentOSのコミュニティの都合によって短期間で終了されてしまう場合もあります*5。これらの対応は大変で、特に開発リソースに限りがある場合は大きな負担となります。MIRACLE LINUXを利用することで顧客はこういったわずらわしさから解放され、自身の製品自体にリソースを集中することができます。
MIRACLE LINUXは長期保守対応産業用PCにおけるプリインストール版Linuxの国内シェアNo1であり、Linux OSの中ではよく使われています。ただし、LinuxOSが使われているのは全体の5%弱程度(87%がWindows)です*6。LinuxOSが使われているのは水処理システム、受変電システムなどの社会インフラ分野であり、かなりニッチだといえます。社会インフラ分野では不具合が生じた時の原因究明が OS レベルで解析が必要とされるため、Linux が選択されているようです。
LinuxOSにおいては大きな需要があるとは言えないまでもニッチな分野で上手くやっているという印象です。CentOSのサポート終了や開発方針変更によってできた新たな需要を取り込んで、しばらくは事業を拡大していけるのではないかと思っています*7。統合システム監視やシステムバックアップ分野についてはよくわかりません。
IoT
認証・セキュリティおよびLinux/OSSの技術を用いて、IoT機器を使うためのソリューションを提供しています。Eclipse Foundationの2020年版IoT開発調査によると、IoT機器で採用されるLinuxの採用傾向は43%でトップとなっており、同社のコア技術であるLinux/OSSが活きる分野だといえます。
- IoT機器向けLinuxOS「EMLinux」
- IoT機器の認証やIoT機器上のOSやソフトウェアの更新をセキュアに行う仕組みを一括して提供する「セキュアIoTプラットフォーム」
- IoT製品の継続的な開発と長期利用を支援するサービス「EM+PLS」
強みについて
認証・セキュリティ分野とLinux/OSSの双方に精通している点が強みです。それぞれ比較的難解な分野であり、技術者を確保することも育てることも簡単ではありません。もちろん、技術が優位性に結び付かなければ意味がないのですが、IoT市場では同社の強みが活きるのではないかと考えています。
国内IoT市場は年々成長を続けており*8、法規制などの影響で長期的な瑕疵担保責任が求められたり、高いセキュリティを要求される分野であり、同社のコア技術と合致しています。
ただ、この分野へは進出してまだ日が浅いのでうまくいくかどうかは現時点では全く分かりません。決算説明によればIoT事業は現時点では組込受託開発がメインで、人工商売であり利益率も低くなっています。組込受託開発やセキュリティコンサルを足掛かりにストック収益が見込めるサービスにつなげていく考えのようです。
業績
売上、利益ともに成長しています。
2021年3月期 決算説明資料 p14より引用
認証・セキュリティ事業が安定成長しています。また、IoT事業はM&Aにより売上が増加しています
2021年3月期 決算説明資料 p13より引用
認証・セキュリティおよびLinux/OSS事業はストック性売上の割合が高く、事業売上が安定しやすいことがわかります。
2021年3月期 決算説明資料 p15より引用
2021年3月期決算時点では、認証・セキュリティ事業が売上成長(おそらく利益についても)の源泉であり、具体的には「iTrust」「デバイスID」が好調なようです*9。また、2022年3月期2QになってLinux/OSS事業の売上も大きく伸びており、CentOSサポート終了によってできた新たな需要をうまく取り込めているようです。
経営も安定しており、今後伸びていきそうな分野で事業を展開しており、さらなる成長が期待できます。
まとめ
サイバートラストは「認証・セキュリティ」「Linux/OSS」の2つのコア技術を有しており、DX化やIoT機器の普及が進む現在の世の中の動きに合致した事業を展開しています。
認証・セキュリティ事業で安定してストック売上を伸ばしている一方で、IoT事業ではまだあまり進展していません。わたしはIoT分野では同社の強みが十分に活かせると思うのでそこそこ期待しています。ただ、本当にうまくいくのかはまだ未知数なので過剰な期待はせずに進捗を見守っていきたいと思っています。
今回はここまでです。
*1:RHELの有償部分を除いたものをベースに開発している
*2:安価であることがRHELと比較した場合の顧客メリットかなと推測
*3:こちらもRHELと互換があるLinuxOS、OSSであり無償で利用可能です
*4:システムメーカーは10年を超える長期保証を行うことがあるが、CentOSの各バージョンのサポート期間はそれよりも短い
*5:CentOS8系
*6:産業用 PC 向け Linux OS 「MIRACLE LINUX」|サイバートラストより
*7:CentOSの企業ユーザー全般の受け皿になる――、サイバートラストが「MIRACLE LINUX」の今後について発表 - クラウド Watch
*8:国内IoT市場は2025年に10兆1902億円へ、IDC Japanの調査 - DIGITAL X(デジタルクロス)
*9:2022年3月期第2四半期決算説明資料p8より