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2021年 IPO 簡易調査 7133 HYUGA PRIMARY CARE

概要

2021年に新規上場した銘柄のうち、面白そうだなと思った銘柄を簡単に紹介します。投資するに優れた銘柄とは限らないためあしからず。


今回の銘柄はHYUGA PRIMARY CAREです。この会社は主に在宅訪問薬局「きらり薬局」の運営および在宅訪問薬局のノウハウや支援システムの提供「きらりプライム」高齢者施設の運営を事業としています。


同社は在宅訪問を事業の中心に据え、これまで成長してきましたが、こういった企業はほとんど存在していないようです(証券リサーチセンタのレポートによると)。在宅訪問薬局の運営が難しいことの表れだと思われます。
 

事業内容

HYUGA PRIMARY CAREの事業は大きく分けて「在宅訪問薬局」「きらりプライム」「高齢者施設運営」の3つに分類されます。他の2つは売上・利益ともに小さいため割愛しています。

各セグメントの売上と利益の内訳です。


2022年3月期決算説明会資料 p8より引用

 

売上と利益の大半が「在宅訪問薬局」事業によるものです。「きらりプライム」事業は売上こそ小さいですが、利益率が高く利益全体の2割程度を稼いでいます。

在宅訪問薬局事業

在宅訪問薬局「きらり薬局」を運営しています。在宅訪問薬局は読んで字のごとく、薬剤師が患者の家または高齢者施設を訪問する形で薬を処方する薬局のことです。

きらり薬局は九州23店舗(福岡県、佐賀県)と首都圏13店舗(東京都、神奈川県、千葉県)の合計36店舗出店しています(2022年3月末時点)。出店コストは1000万円~2000万円、安いと500万円程度で年に3~5店舗の出店を考えているということです(ログミーファイナンス掲載のIR動画より)。

きらり薬局の在宅訪問している患者の属性は以下のとおりです。


事業計画及び成長可能性に関する説明資料 p24より引用

 
ほとんどの顧客が要介護度が高く、高齢者施設に入居している患者であることがわかります。通院が難しく訪問医を既に利用している方がきらり薬局の顧客となることが多いようです。訪問医から出された処方箋を元に家族や施設のスタッフが薬局に薬を受け取りに行くのは負担が大きいため、在宅訪問薬局を使うメリットがあるということです。


一般の薬局と比較した在宅訪問薬局(または業務)の特徴は

  1. 医療機関から離れた場所でもよいため、立地上の制約が少なく、出店コストを抑えられる。また、競合もしにくい
  2. 調剤業務の工程が多く、人材・機器投資・調剤室の広さが必要(きらり薬局では3倍のスペースを確保)。
  3. 通院困難な高齢者施設入居者と長期的提携が可能でストック型の収入を得ることが可能。医療報酬も在宅訪問の方が高く設定されている
  4. 薬剤師が関わる業務が幅広く、仕事量も多いため、一般の薬局と比較して2倍の薬剤師を確保しなくてはならず、人のやりくりにノウハウが必要

となっています。


一般の薬局から見た在宅訪問薬局業務への参入障壁は

  1. 人手がかかるため薬剤師を通常の2倍は確保する必要があり、人のやりくりにノウハウが必要(大変なのに儲からないということになりかねない)
  2. 薬剤師の業務が多岐にわたるため、既存の薬剤師が在宅訪問業務を行うにもハードルが高い(教育が大変だったり、採用時に説明していた業務内容から大きく異なるため薬剤師自身がチャレンジする気になるのか)
  3. 調剤業務の工程が多いため、機器や店舗スペースに投資を行う必要がある

です。


特に在宅訪問薬局業務を行う人材の確保(教育も含めて)と効率的な運営のためのマネジメントが大変だというのが大きいように思います。薬剤師の業務は調剤業務のみならず

  • 個別の患者との会話、体調や副作用の有無を確認
  • 施設のスタッフとの情報交換によって患者の状態を把握、必要に応じてスタッフへ情報提供
  • ケアマネージャーを通じ、他の施設への薬の副作用情報の伝達
  • 高齢者施設とは新規取引開始時に臨時の打ち合わせが発生、相手の要望を聞き、折衝・営業する能力が必要
  • 24時間365日対応が必要となる場合がある(例えば患者の様態急変で営業時間外に薬の処方を求められることもあれば、患者からの問い合わせがあることも)
  • 在宅訪問後の処方医、ケアマネージャーへの報告

といった業務があり、幅広い能力が求められます。こういった人材を教育、確保するのは簡単ではないように思います。


また、人手がかかるために人件費負担が大きく収益化までのハードルが高い点については、きらり薬局の場合はドミナント出店による店舗間の人材融通であったり、訪問ルートの効率化などノウハウがあるようですが、一般の薬局からすると参入を見送る理由になります。


前述した通り、同社の顧客の多くは高齢者施設に入居していますが、同社の在宅訪問薬局業務は高齢者施設にとっても多くのメリットがあります。

  • 定期的に薬剤師の訪問があり、専門知識の提供を受けることが出来る(スタッフは薬の副作用の知識は基本的にない)。医者でさえも薬について十分に知識(自信)のない領域がある(透析患者向けの医療麻薬処方など)
  • 医者から処方された薬を薬局に取りに行く必要がない。家族へこの負担を求める必要がない
  • 患者の服薬誤りを防止する工夫がされている。スタッフが患者へ誤って薬を提供しにくい工夫がされているほか、効率的に患者に薬を提供できるように工夫されている(同一階の患者毎に薬が仕分けされている、すべての薬に服薬日時、患者名、薬の内容が記載されている、朝昼夜とで薬の袋が色分けされている、一緒に飲む薬が一包化されているor一包化できないものはホッチキスなどでまとめられているなど)
  • 患者の様態急変による急な処方ニーズ、問い合わせに答えてくれる(24時間365日)

 

以下は調剤工程の説明資料。これだけ手間をかけて工夫していることで、高齢者施設へ大きなメリットを提供できています。


2023年3月期3Q決算説明資料 p40より引用


上記から同社にとって、オンライン診療やアマゾン薬局は競合になりにくいといえます。この2つは上記のメリットの多くを提供することができません。


このように高齢者施設の業務の助けになるサービスを提供できているため、きらり薬局は長期にわたって安定した収益を得ることが出来るわけです。いまのところ、高齢者施設について他の薬局とバッティングすることはないようで、在宅訪問薬局の利用者への普及はまだまだこれからであるようです。


以下は在宅訪問介護事業のKPI推移です。


2023年3月期 3Q 決算説明資料 p14より引用

 

店舗数及び顧客数ともに順調に増加していることがわかります。

きらりプライム事業

他の調剤薬局に向けて在宅訪問薬局業務のためのノウハウや業務効率化のためのシステムを提供しています。

以下がサービスの内容です。


事業計画及び成長可能性に関する説明資料 p27より引用

 

きらりプライムの主な顧客は小規模な調剤薬局であり、小規模な調剤薬局は

  • 医療機関に近い立地を得ることが出来ていない(そういう立地は大手が確保してしまう)
  • 調剤報酬が下がっているため収益面で不安があり、在宅訪問の調剤報酬は高いため在宅訪問薬局業務への参入動機がある
  • 在宅訪問薬局業務への参入動機はあるが、そのための人手とノウハウがなく参入が難しい
  • 大手調剤薬局の店舗数拡大もあり、生き残りがかかっている

といった状況にあります。


きらりプライムは小規模場調剤薬局の在宅訪問薬局業務への参入をサポートするサービスとなっています。きらりプライムに加入した調剤薬局が在宅訪問薬局業務へ参入し、収益を改善させるモデルケースは

  1. 医薬品仕入れ交渉代行サービスの活用により、若干収益性が改善する
  2. 収益改善によって得た資金でパートなどで人手を確保する
  3. 在宅訪問を開始し、在宅患者2名・年間在宅実績24回以上を達成し、地域支援体制加算1の要件を満たす
  4. 医療報酬が処方箋1枚につき390円加算される
  5. 収益性が改善する

のようになっており、収益性が改善するまで少なくとも1年くらいはかかる公算となっています。


きらりプライムのKPI推移は以下のとおりです。


2022年3月期決算説明会資料 p14より引用

 

解約数についてもおおむね1%以内で推移しているようであり、サービス利用数も増加しているためかなり上手く行っている印象です。全国の調剤薬局の数は5.9万近くあり(そのうちターゲットとしているのは2.5万)、伸びしろもまだまだあります。


きらりプライムは同社の競合を増やしてしまうのではないかという懸念もあるようですが

  • 在宅訪問薬局業務は需要に対して供給が全然追いついていない状況であり、業界全体のことを考えるとノウハウを提供するメリットが大きい
  • 現時点で同社は在宅訪問分野については先駆者であり、他社を圧倒するノウハウを持っている状況であり、サービスを提供すれば必ず儲けられる自信があった(先行優位を獲得できる)
  • 大局的には在宅訪問薬局業務はまだ普及の初期段階であり、普及が進めばどうせ今持っているノウハウは陳腐化してしまうだろうから、それなら自ら積極的に普及を推進していくことでもっと価値のあるノウハウを他社に先駆けて蓄積できるだろうという公算があった

ということなのではないかと私は考えています。

高齢者施設運営事業

2023年1月より、福岡県春日市で高齢者施設の運営を開始しています。規模はおよそ100名程度と大規模で、医療需要が高く、要介護度が高い高齢者向けの施設となっています。医療需要が高い患者向け、また要介護度が高い患者向けの施設は既にあるようですが、双方の需要を満たす施設はまだ少ないということです。




2023/2/20 個人投資家向けWEB説明会資料 p20~22より引用


同社は高齢者施設への訪問を通じて、高齢者施設運営にかかる課題を多く目にしてきていることから、同社がこういった施設運営の難しさを知らないはずがないので、ある程度収益を上げられる目途が立っているから参入したのだと思いますが、どういう強みがあって、どういう点で上手くやれるのかということについては現時点の開示ではよくわかりません。
 

おそらく

  • 大型施設運営に自信があり、大型であるゆえに効率的なサービス提供が可能
  • 当施設を拠点に訪問看護・介護サービスを周辺施設や患者宅へ提供できるため看護・介護人材を遊ばせることがない
  • ICT活用により既存の方法よりも効率化(ノウハウの蓄積、訪問ルートの最適化、需要予測)が出来る

ということなのかなと推測しています。
 

通常であればオペレーションがこなれてくるまでは赤字となるはずであり、さらに2つ目の施設を2023年中に開設予定であるため、しばらく業績を圧迫することになるのではないかと予想しているのですが、経営者の方の印象としてはしっかりと考えており、無謀な挑戦はしないと思うので収益化は予想より早くなるかもしれません。


今後の開示に期待したいと思います。

  • 要介護度が高まる際にホテルコストを下げられる理由
  • どのようにして効率的に施設を運営するのか
  • 収益化までにどの程度かかるのか

 

業績

「在宅訪問薬局事業」および「きらりプライム事業」の成長に伴い、売上・利益ともに成長しています。



2023/2/20 個人投資家向けWEB説明会資料 p10、p12より引用

 

まとめ

HYUGA PRIMARY CAREは「在宅訪問薬局事業」において強み持つ稀有な存在をであり、そのノウハウを「きらりプライム事業」を通じて他社に提供することでも収益を上げています。「在宅訪問薬局事業」と「きらりプライム事業」はともにストック性の高いビジネスであり、業績は安定しやすいです。

同社社内で賛否あった「きらりプライム」事業は、大手の参入やノウハウ陳腐化への対抗策として良い方法だと自分は評価しています。国の方針として在宅訪問薬局が推進される以上、必ず今のノウハウは陳腐化するし、自分よりも資本力がある大手が将来的には必ず参入してきます。自ら変革の先頭に立つことで、ノウハウ改善のもっともいいポジションにい続けるというやり方は素晴らしいです。今の立場を捨てるということは中々できることではないし、社内での抵抗も大きかったと思うので、良く決断出来たなと感心しています。


2023年1月より開始した「高齢者施設運営事業」の成否はまだわかりません。今後の開示に期待したいです。

また、国は財政の問題から、医療報酬の操作によって在宅医療への移行を進める動機があるため、同社のビジネスにとってはしばらく良い環境が続くのではないかと考えられます。


今回はここまでです。