株式銘柄紹介ブログ

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2021年 IPO 簡易調査 6524 湖北工業

概要

2021年に新規上場した銘柄のうち、面白そうだなと思った銘柄を簡単に紹介します。投資するに優れた銘柄とは限らないためあしからず。


今回の銘柄は湖北工業です。この会社は主にアルミ電解コンデンサ用のリード端子製造および海底ケーブル向けの光部品・デバイス製造を事業としています。


同社のアルミ電解コンデンサ用リード端子、海底ケーブル向けの光アイソレータは世界トップシェアであり、海外売上比率も高いです。同社は2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」として選定されています。
 

事業内容

湖北工業の事業は大きく分けて「リード端子事業」「光部品・デバイス事業」の2つに分類されます。

2022年12月期の各事業の売上と利益です。

事業 売上 利益 利益率
リード端子事業 83.8億円 2.3億円 2.8%
光部品・デバイス事業 72.9億円 36.5億円 50.1%

 

売上は各事業あまり変わりませんが、利益の大半が光部品・デバイス事業によるものです。利益率も全然違います。

リード端子事業

リード端子事業は1959年設立当初からの祖業であり、アルミ電解コンデンサ用のリード端子を製造し、日系を中心とした主要アルミ電解コンデンサメーカに供給しています。


同社は比較的付加価値の高い車載向け、通信基地局等ICT向け市場に注力しており、アルミ電解コンデンサの世界シェア60%を獲得しています。車載向けリード端子の世界シェアは95%、基地局市場の世界シェアは50%となっています。


2021年12月期決算説明会資料 p6


2022年12月15日 個人投資家向け会社説明会 p6

 
同社の強みは

  • 量産技術力。製造装置のすべてを内製化しており、メーカが求める品質の製品を極めて効率的に生産することが可能
    • 溶接・プレス・洗浄・化成のすべての製造工程において独自のコア技術を開発し、製造装置に適応
    • 溶接技術がコア技術の中枢。鉄・銅・錫・ビスマス・アルミといった融点が大きく異なる金属群を瞬間的に溶接可能
    • 1秒に5個のハイスピードでリード端子を生産
    • 溶接強度に優れている。車載メーカの要求強度5ニュートンに対し、30ニュートンを実現
    • 全製造工程において車載メーカの品質要求を満たし、シックスシグマ管理(不良品発生の確立を極小まで低減することを目標とした品質活動)で実現する品質特性を顧客から評価されている
  • アルミ電解コンデンサの特性・品質向上のための技術開発力(国際特許取得、装置は内製化)
    • アルミ電解コンデンサ中のアルミ箔や電解紙(セパレータ)の破損を防止するためにプレス工程を改善、突起物の発生を抑制する技術(ノーバリ技術)
    • アルミ電解コンデンサ破損の原因になるウィスカ(金属結晶が針状に成長する現象)抑制のための樹脂コーティング技術
    • アルミ電解コンデンサのスリーブ破損*1と封口ゴム破損対策のための、Cp線*2の先端を丸目状に加工する技術を開発
  • 主要顧客と長期的かつ安定的な取引を継続しており、顧客が望む製品品質や特性をいち早く知ることが可能
  • 安定供給体制。マレーシア1拠点、中国2拠点の合計3拠点で同一設備、同一生産方法で生産、BCPに対応する体制を構築
    • 主要アルミコンデンサメーカの工場拠点に近い立地での生産をしている

です。


特に同社の製造装置の内製化を始めとした努力による量産技術は模倣困難であり、アルミ電解コンデンサ向けリード端子の市場規模も150億円程度(同社の資料から推計)と小さいことから他社の参入は考えにくいです。


2022年12月15日 個人投資家向け会社説明会 p9

 
このように同社はリード端子事業では高いシェアと参入障壁を築き上げていますが、営業利益率はせいぜい5%程度と高くありません。その理由としては

  • 自動車自体・車載電子機器と比較して、アルミ電解コンデンサの付加価値が低い
  • リード端子がアルミ電解コンデンサの品質に与える影響が限定的か、他社が作るリード端子でも最悪許容可能で代替可能性が高い
  • 日系自動車メーカの価格低下圧力が非常に高い

が考えられます。


アルミ電解コンデンサの需要は

  • 自動車の電子化
  • 通信基地局の増加

が進んでいることから、増加していくことが見込まれており、事業環境は良いです。



2021年12月期決算説明会資料 p32、p33

 

光部品・デバイス事業

光部品・デバイス事業では光ファイバ通信の機器や光モジュールに使用される光部品・デバイスを製造販売しています。特に1995年に製造販売を始めた高信頼性(水深6000メートルの海底で25年間故障せず機能し続けること)が要求される光アイソレータが中核製品となっています。


同社の光アイソレータは主に海底ケーブルの光増幅装置で使われており、世界シェアの50%を獲得しています。


2022年12月15日 個人投資家向け会社説明会 p7

 
同社の強みは

  • 精密形状の石英ガラスの製造技術(精密スラリーキャスト法)*3、磁気光学材料の製造技術
    • スラリーキャスト法は割とありふれた技術だがもともとは精密形状の物体を製造することはできなかったが、同社が方法を改良した
    • 磁気光学材料の製造技術については大学機関と連携し開発している模様(理論の裏付けを得ながらやっている)
  • 光学部品の精密組み立て技術(微細な配置、擦り合わせ)
    • 光ファイバの高精度整列技術(光ファイバの端末を加工する際に髪の毛よりも細い光ファイバを2本以上整列固定する技術)
    • 光部品の高精度すり合わせ技術(光デバイスを製造する際にレンズやファラデーローテータなどの光学部品を0.001ミリメートルの精度にて調整固定する技術)

です。

光アイソレータに使われる光素子(ファラデーローテータ)の製造自体や、部品をくみ上げて製品にする工程が高い精度・微細な調整が求められ難しいこと、100万時間当たりの故障率が0.01%以下の高信頼性を実現していること。また、海底ケーブル用受動光デバイス市場規模はせいぜい数百億円程度と小さい*4ことが参入障壁として機能していると考えています。


光部品・デバイス事業の収益性は極めて高いですが

  • 海底ケーブルに使われる光増幅装置の付加価値が高い(車に対する車載アルミ電解コンデンサと比較すると、海底ケーブルに対する光増幅装置のウェイトは高い)
  • 光アイソレータは光増幅装置の品質を大きく左右し(光アイソレータが正しく造作しないと共振が発生するらしい)、海底ケーブルに用いる都合から高信頼性が求められ、代替可能性が低い

といった点が影響してると考えています。


海底ケーブル向けの光アイソレータの需要は

  • 大容量化のため光ファイバの多芯化が進んでいる
  • 海底ケーブルの敷設が進んでいる

ことから増加する見込みであり、事業環境は良いです。


2022年12月15日 個人投資家向け会社説明会 p35

 

製造拠点

日本、中国、マレーシア、シンガポール、スリランカの五か国に製造拠点を有しています。


2022年12月15日 個人投資家向け会社説明会 p35

業績

売上・利益ともに成長しています。


湖北工業 IRページ 業績・財務ハイライトより引用

 

海外売上比率

海外売上比率は65%と過半が海外売上となっています。


2022年12月15日 個人投資家向け会社説明会 p4

まとめ

湖北工業は主に生産に強みを持つグローバルニッチトップメーカです。

「リード端子事業」「光部品・デバイス事業」ともに生産に強みを持っており、特に「光部品・デバイス事業」は収益性が高いです。ともにニッチな領域で事業を営んでおり、強みを持っていることから競合が参入する可能性は高くないと評価しています(参入のメリットが低い、参入されても負けない)。また、いずれも事業環境がよく、売上や利益は増えていきやすいです。

景気循環の影響を受けそうではありますが、長期的に期待できる会社なのかなと個人的に思っています。光部品・デバイス事業が今のように儲かるようになったのは比較的最近のように見受けられるので今後の動向については注視していきたいです。

今回はここまでです。

*1:アルミ電解コンデンサを覆っているビニールとリード端子の先端とが接触し、ビニールを損傷させてしまう事象

*2:銅で被膜された金属線

*3:https://www.keibun.co.jp/saveimg/kakehashi/0000000159/pdf_sub_2849_20130725100348.pdf

*4:海底ケーブル用光部品で世界トップシェア 湖北工業の強さの秘密 | 経済産業省 METI Journal ONLINE