事業内容
事業概要
毎日コムネットは学生向けの賃貸住宅事業を主な事業として営んでいます。
毎日コムネットの事業は「不動産ソリューション」事業、「学生生活ソリューション」事業の2つのセグメント分類されており、それぞれ以下のようなサービスを顧客に提供しています。
有価証券報告書、IR資料より作成
以下は2019年5月期のセグメント別の売上および利益構成です。
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売上と利益の大半を「不動産ソリューション」事業が稼いでいます。また、後述しますが同社の売上と利益成長は「不動産ソリューション」事業によるものであり、こちらの事業のほうが重要度は高いです。
また、同社は開発した不動産を自社で保有せずに、サブリース契約を結ぶ形で収益を生み出しており(入居者の家賃とサブリース契約を結んだオーナーへ支払う家賃との差額が収益となる)、通常の賃貸事業と比較すると自社で不動産を保有する必要がなく、小さい資本で収益を稼ぐことができるというメリットがあります。また、通常の不動産開発・販売事業と比較すると収益がストック型となり安定しやすいというメリットがあります。
業績推移
注意
同社は2011-5期決算より会計期間を変更しているため、2011-5期のみ会計期間が半年となっています。
売上と利益
以下のグラフは売上と営業利益率の推移です。
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売上が大きく成長しています。営業利益率は2009-11期に大きく低下しており、景気循環性があることがわかります。
2019-5期の営業利益率は11%程度と高いです。また、営業利益率が低下傾向にありますが、これは同社の売り上げ構成の変化によるところが大きいと考えています(証明するデータはない)。
以下のグラフは営業利益と純利益の推移です。
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2009-11期以降、営業利益・純利益ともに落ち込む時期はありましたが、この14年間で成長できています。
以下のグラフはROAとROEの推移です。
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2019-5期のROEは14%です。高い水準ですが、財務レバレッジも3倍弱とまぁまぁ高いです。
セグメント別の売上・利益推移
以下はセグメント別の売上構成の推移および売上増減です。
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「不動産ソリューション」事業と「学生生活ソリューション」事業、双方の売上が増加していますが、増加量が大きいのは「不動産ソリューション」事業です。
以下はセグメント別の利益構成および利益増減の推移です。
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利益増加については「不動産ソリューション」事業によるものであることがわかります。
「学生生活ソリューション」事業については2015-5期に人材ソリューション部門が加わることで約2億円程度利益が増加していますが、「不動産ソリューション」事業と比較すると小さいです。
同社の売上増加についてもう少し詳しく見てみましょう。
以下は部門別の売上構成および増加量の推移です。
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同社の売上の増加は不動産マネジメント部門によるところが大きいことがわかります。また、売上に占める割合も同部門のものが最も大きくなっています。利益については公開されていませんが、おそらく利益についても同じでしょう。
以下は「不動産ソリューション」事業の各部門の事業内容、収益源、管理物件数をまとめた表です。
IR資料より表を作成
不動産マネジメント部門のうち、サブリース業務に関連する物件数が7827と非常に多く、学生向け賃貸住宅のサブリースが同社の売上と利益の稼ぎ頭であり、成長ドライバーであることを示唆しています(利益が公開されていないので)。
以下は同社が管理する物件の内訳の推移です。
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サブリース向け物件が極めて多く、物件数も増加していることがわかります。
同社は主に学生向け賃貸住宅のサブリース契約によって売上と利益を稼いでおり、学生向け賃貸住宅の開発はサブリース契約のストック数を増やすための手段となっています。不動産デベロップメント部門の売上は少ないですが、全く問題ありません。ここで稼がなくても、開発した物件について顧客とサブリース契約を結べればそれでいいのですから。
この方式は通常の不動産開発・販売事業と比較して以下の点で優れています。
- 収益がストック型となり安定しやすい
- 資本リスクが小さく、小資本で収益を稼げる(同社の場合は顧客資本を用いて不動産開発を行っているため、ただし、同社は一部自社でも不動産開発を行っている)
また、通常の賃貸事業と比較しても以下の点で優れています。
- 資本リスクが小さく、小資本で収益を稼げる
不動産事業は多大な資本が必要で大きなリスクを背負うことが多いですが、同社はうまいことリスクを低減させて事業を営んでいるといえます。
資産
以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。
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総資産額は増加しています。2019-3期の自己資本比率は30%程度と標準より低いです。
以下のグラフは資産(B/Sの左側)の内訳推移です。
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総資産の増加は棚卸資産と有形固定資産の増加によるものです。
棚卸資産の殆どが販売用不動産です。同社は資本リスクを結構取っています。ストックを増やすために顧客資本を使う方法もありますが、同社は自己資本も結構使っています。
有形固定資産が増えたのは、同社が保有する賃貸不動産の増加と太陽光発電用の設備の増加によります。
以下のグラフは負債(B/Sの右側)の内訳推移です。
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自己資本および有利子負債が増加しています。
以下は自己資本の内訳推移です。
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自己資本の増加は利益剰余金の増加によるものです。
キャッシュフロー
注意
同社はサブリース契約のストックから安定した収益を得ており、販売用不動産(棚卸資産)への資金投下はストックを得るための投資であるとみなすことができるため、ここでは変則的ですが棚卸資産の増減を営業CFではなく投資CFに計上しています。
営業CF
以下のグラフは営業CFの推移です。
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営業CFは緩やかに成長しています。
投資CF
以下のグラフは投資CFの推移です。
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大半が販売用不動産の増減および固定資産の取得・売却によるものです。また、額は少ないですが買収も行っています。
以下は主な設備投資の内容です。おおよその額を記載していることに注意してください。また、かならずしも投資CFの値とは一致しません。
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設備投資の主なものは賃貸用不動産の取得および太陽光発電施設の取得のためのものです。
また、一部ですが販売用不動産から賃貸用不動産への振替があります。時期が不景気と重なるので顧客に販売することをあきらめて自社で運用することにしたという風にみえます。
販売用不動産の増加はサブリース契約のストック増加ための投資です。しかし、顧客の資本を使ってストックを増やす方法もあるわけなので、いまをチャンスと見て積極的に投資しているということです。
以下の表は同社の買収内容です。
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「学生生活ソリューション」事業に関連する買収となっています。
財務CF
以下のグラフは財務CFの推移です。
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借入に関するCFが極めて多いです。
以下は有利子負債の内訳推移です。
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有利子負債は増えていますが、長期の負債で資金調達できていることがわかります。
以下のグラフは財務CFのうち株主に関連する収支の内訳です。
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株主に関連するCFは配当の支払いと、自己株式の取得でほとんど説明できます。
配当金の支払い額は増加しています。
全体
以下のグラフは各種CFおよび現金・有価証券と有利子負債の推移です。
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- 営業CFは緩やかに成長している
- フリーCFはマイナスであることが多い
- ネットキャッシュはマイナス、有利子負債が非常に多い
営業CFは成長していますが、フリーCFがマイナスであり積極的に投資を行っています。
ネットキャッシュはマイナスで有利子負債はかなり多いです。
今をチャンスととらえて積極的に投資している会社です。
まとめ
財務について
売上も利益も成長しています。
2006-11と2019-5を比較すると
- 売上は63億円から174億円
- 営業利益は13億円から20億円
- 純利益は6.8億円から12.5憶円
に成長しています。
また、各種CFを見る限り、積極的な投資を行っており、ネットキャッシュもマイナスです。
ただし、同社はサブリース契約物件から安定した収益を得られている「はず」なので財務が悪化するリスクはそこまで高くないと判断しています。景気循環性がありますが、現時点では過去よりも耐性がついていると考えています。
各セグメントについて
利益の成長という観点で見ると、「不動産ソリューション」事業の重要性が高いです。特にサブリース業務。
「学生生活ソリューション」事業も売上・利益の面で増加はしていますが、同社の成長ドライバーになるとは現時点では考えにくいです。
投資判断など
通常の不動産開発・販売、不動産賃貸事業と比較して資本リスクが低いといいましたが、資産やCFを確認すると相応のリスクをとった事業運営をしています。同社が結構な量の販売用不動産を保有していますし、そのための資本投下も多いです。
しかし、販売用不動産は同社が先に入居者を募集するなど運営・管理を行った上で、サブリース付きの収益物件として顧客に販売しているので、入居者がついて収益化できていれば自社保有賃貸不動産に振り替えてしまっても問題ありません(資金がショートしなければ)。
したがって、いろいろ回りくどい言い方になっていますが、学生向け賃貸住宅がうまく運営できるなら問題ないということです。
それでは日本の学生の人数がこれがらどうなっていくかというと、推計(資料2 大学への進学者数の将来推計について)によると2017年が学生数のピークであり、これ以降は減少してくと予想されています。2017年に63万人となったと、2040年に51万人に減少する推計です。一方で、外国人留学生は年々増加しており、
日本学生支援機構の調査によれば直近の10年間に大学生・大学院生が約5万人増えています。これが続くのであれば国内の学生数の減少を補うことができます。
わたしは
- アジア圏から見た留学先としての日本の相対的な地位は年々下降していると考えている
- 国内の大学生は減少していく予測であり、大学生の増加速度は今後低下していくはず
といった観点から、今後同社の収益力は低下していくだろうと、かなり保守的な予想をしています。
長期的な投資には向かないと判断しています。しかし、短期的には少なくとも4年間程度は今の業績は維持できると思いますし、価格によっては投資はかなと思います。
今回はここまでです。