事業内容
フジシールインターナショナルは飲料・日用品・食品などのラベルおよび包装機械の製造販売を主な事業として営んでいます。
同社は主に以下の品目を製造販売しています。
品目 | 説明 |
---|---|
シュリンクラベル | 熱をかけることによって収縮し容器の形状に合わせて変形し容器にフィットするラベル。ペットボトルをはじめとして多種多様な形状の容器に使用されている |
タックラベル | あらかじめ原紙の裏面に接着剤が加工されたシール用ラベルのこと。商品のメインラベルとは別に販促情報や詳細情報を追加で添付したい際にシールのように張り付けて使われる。POPやブックレットとして主に使われている |
ソフトパウチ | 飲料・日用品・医薬流動食市場などで、従来の固形容器に代わる軟包装袋。口栓付パウチと呼ばれるもので、フレキシブルパウチの特性とボトル機能を兼ね備えている |
機械 | シュリンクラベラーなどラベルを取り付けるための包装機械や箱詰め機械など |
有価証券報告書、統合報告書、同社ホームページより表を作成
以下の図は同社の2020年の統合報告書のp17、p18より引用したものに一部文字および図を追加したものです。シュリンクラベル、タックラベル(ここではPOP)、ソフトパウチとは具体的には以下のようなものです。
2020年の統合報告書のp17、p18より引用
以下は2020年3月期の品目別の売上構成です。
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シュリンクラベル、タックラベル、ソフトパウチ、機械で売上の大半を稼いでいます。特にシュリンクラベルの売上が大きいです。
以下は2020年3月期の地域別の売上および利益の構成です。
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売上の大半を日本、米州、欧州(PAGOはヨーロッパ)であげています。海外売上比率は約40%程度です。利益については日本と米州でほとんどすべて稼いでいるといえます。同社は日本、米州、欧州など先進国地域で売上と利益を稼いでいるといえます。
業績推移
売上と利益
以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。
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売上と利益がともに成長しています。2020-3期の営業利益率はおおよそ8%程度あり高い水準です。2008-3期に利益率が低下していますが、やや景気循環的な性質があるのかもしれません。
以下のグラフはROAとROE、財務レバレッジの推移です。
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ROA、ROEは増減があるものの大きな変化はないと評価しています。財務レバレッジは低下気味です。
品目別の売上推移
以下は品目別の売上構成および売上増加量の推移です。
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シュリンクラベルの売上が最も増加しています。それに次いで、ソフトパウチ、タックラベルとなっています。タックラベルは2014-3期に大きく伸長しましたがそれ以降は横ばいです。ソフトパウチの売上は継続的に増加しています。ラベルほどではありませんが機械の売上も増えています。
以下のグラフはシュリンクラベル、タックラベル、ソフトパウチ、機械の地域別の売上構成です(2011-3期以降のデータ)。
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シュリンクラベルについては日本、米州、欧州、アセアンともに売上が増加しています。
ソフトパウチは主に日本と米州で売上が増加しています。
一方、タックラベルは売上があまり増えていません(オーガニックな成長という意味では)。日本の売上は微増したのみ、米州、欧州でも近年やや売上が増加、買収したPago Holding AG(ヨーロッパで事業を展開)は経営再建のため事業を整理中で売上が減少しています。
機械は日本、米州、欧州で売上を増やしています。
地域別の売上および利益推移
以下は地域別の売上構成および増加量です。
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売上の増加が最も大きいのは日本、次いで米州、PAGO、欧州、アセアンとなっています。PAGOの売上が2014-3期以降減少しているのは買収したPago Holding AGの経営再建のため事業整理を進めているからです。
以下は地域別の利益構成および増加量です。
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利益の増加が最も大きいのは日本と米州です。次いでアセアン、欧州となっています。PAGOは利益には貢献できていません。タックラベルの技術といった貢献や、欧州のタックラベル事業拡大の足掛かりといった思惑はあると思いますが。
以下は地域別の利益率の推移です。
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利益率が高いのは日本、米州、次いでアセアンとなっています。特にアセアンは2019-3期以降、収益性が改善しています。一方で、欧州およびPAGOは苦戦しています。特に欧州は2016-3期以降大きく悪化しています。2016-3期に急激に利益が悪化したのは2014年12月にポーランドの工場で火災事故が発生したことによります。それ以降の利益低迷は別の要因だと思われますが原因はよくわかりませんでした。
以下の表にポーランド工場火災発生以降の欧州事業に関する有報の抜粋(または要約)をまとめました。
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売上の拡大策や生産体制の合理化などにより近年では利益は回復してきています。
以下の表にPAGO買収以降のPAGO事業に関する有報の抜粋(または要約)をまとめました。
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Pago Holding AGは買収前は赤字であり、買収以降経営再建のため製品ポートフォリオの整理、生産の合理化などを行っています。それでも黒字には至っておらず、もうしばらく時間がかかりそうです。
以下のグラフは日本、米州、欧州、PAGO、アセアンの品目別の売上構成です(2011-3期以降のデータ)。
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資産
以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。
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総資産は増加しています。自己資本比率はほぼ横ばいです。2020-3期の自己資本比率は64%で高い水準です。
以下のグラフは資産の内訳推移です。
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有形固定資産が多いです。同社の事業の特性上、成長のためには生産設備への多大な投資が必要だからです。
以下のグラフは負債の内訳推移です。
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自己資本が負債の多くを占めています。自己資本が増加しており、有利子負債も若干増えています。
以下のグラフは自己資本の内訳推移です。
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利益剰余金の増加によって自己資本が積みあがっており健全です。
同社の簿外債務についてですが有報に記載がある範囲では解約不能のオペレーティングリースが2020-3期時点で3億円程度あるのみです。
キャッシュフロー
営業CF
以下のグラフは営業CFの推移です。
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営業CFは成長しています。
投資CF
以下のグラフは投資CFの推移です。
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投資CFの多くが設備投資等によるものす。
以下のグラフに投資CFのうち設備投資の支出のみを抜き出し、図示します。
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有形固定資産と無形資産の取得がすべてです。
以下の表に有報記載の「設備投資の状況」の内容をまとめました。
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生産設備に対する投資が大半を占めていることがわかります。
以下は主な買収の一覧です。
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お主な買収は欧州でのPago Holding AGとタイのFuji Ace Co., Ltd.です。Pagoはタックラベル事業拡大のために買収しましたが経営の再建にてこずっています。Fuji Aceの買収は提携先である味の素の事業整理に伴うものです。買収にかける金額は投資CF全体から見てそれほど大きくなく、基本的にオーガニックな成長を志向しているといえます。
財務CF
以下のグラフは財務CFの推移です。
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株主への支出と借入で財務CFはほぼ説明できます。PAGO買収のため2013-3期に長期借入と社債によって合計100億円を調達しています。
以下は投資CF中の株主に関するCFの内訳です。
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配当金の支払い額は年々増えています。また、株価の下落時に自社株買いを行っているようです。
全体
以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。
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営業CFはプラスであり、成長しています。現金が増える一方で有利子負債も増えています。経営状態はよいですが、生産設備に多大な投資が必要であり、キャッシュが余るような事業ではありません。
まとめ
フジシールインターナショナルの2020-3期の売上は1609憶円、営業利益は126億円、営業利益率は7.9%でした。14年間の平均売上成長率は4.5%、営業利益成長率は4.1%でした。
同社は日本および米州で売上と利益を伸ばしています。一方で、欧州(PAGO含む)は苦戦しています。また、アセアンは売上が増加しており、それに伴って近年急速に利益率を改善しています。同社の売上は大半が日本、米州、欧米といった先進諸国によるもので、発展途上国での売上はわずかです。同社の重要な課題は「欧州事業の収益性の改善」「アセアン地域でのさらなる事業拡大」「昨今の脱プラスチックの流れを受け先進諸国での売上・利益を如何に維持・拡大するか」だと考えています。
2019-3期決算の発表以降、同社の株価は大きく下落しています。決算短信をみる限り増収増益予想であり(実際にはほぼ横ばいだったが)、ここまで大きく株価が下落する要因はなさそうです。「世界的な脱プラスチックの流れから同社の将来の業績が悪化すると市場がとらえている」ということだとわたしは理解しています。
マネックス証券の銘柄ページより引用(2020年11月24日現在)
個人的には株価下落以前は過剰な期待によって株価が吊り上がっていただけで、現時点の株価は妥当な水準になったのだと思っています。
今回はここまでです。